空港使用料巡る新たな綱引き

2023.03.13 00:00

 国にとって空港は戦略的に重要な資産で、官営・民営を問わず健全な運営が望ましい。空港の収入源は主に着陸料など空港使用料で、料金水準はしばしば負担する航空会社と対立の種になる。航空会社も空港も近年はコロナ禍による赤字増大で苦境にあるが、空港は新たな環境対策やインフラ整備に迫られている。しかし欧州では政府が空港使用料に上限を設けており、空港はそれを超える値上げができない。空港使用料はフライト数に関係するが、その数も政府が制限することがある。

 最近、オランダ政府は世界で初めて環境問題で空港のフライト数の上限を定めた。スキポール空港は19年より11%少ない数に制限する。スペイン政府はコロナによる20億ユーロの損失挽回のために空港会社が求めた料金値上げを拒否した。現在、英国の民間航空局(CAA)は空港が賦課できる料金水準の最終発表をする準備をしており、ヒースロー空港と航空会社の間で紛争が起きそうだ。同空港はコロナによる損失の埋め合わせのために料金水準はすでに世界最高になっておりサービス改善を求められている。政府は26年までの5年間で料金切り下げを提案する予定だ。

 欧州の空港は60%が赤字だ。国際空港評議会(ACI)が発表した経営評価指標によると、年間1億500万人以上の旅客を扱う欧州の空港は概して規制料金で必要コストを回収できていない。空港と航空会社が交渉して投資と費用を賄う必要料金を決定できればよいが、政府の料金規制がそれを妨げている。

 英フィナンシャルタイムズ(FT)は20年前に料金の規制を廃止した豪州の事例を推奨し紹介している。空港と航空会社が交渉して契約した空港使用料を政府が承認するものだ。規制当局は両者が合意できなかった時、または空港が地位を濫用した時にのみ干渉する。19年に政府が委嘱した報告書は制度を大きく変更する理由はないと結論づけた。商業的交渉は規制的料金設定より好ましく、独立の仲裁プロセスが市場の優越的地位乱用を防止することが実証された。

 激しい競争下にある航空会社には「独占事業体と交渉して商業的な議論はできない」とする意見もある。消費者保護が目的の豪州の競争・消費者委員会(ACCC)は、主要空港が明らかに不当な利益を上げているとしたが、料金規制が空港の権力濫用防止に役立たないことを認めた。その理由としてどの国にもある公正競争法を挙げる。

 航空会社は空港の権力乱用を裁判に訴えることができる。問題は空港に市場支配力があるかということではなく、それを濫用するかだ。豪州の裁判所は昨年、パース空港が18年の空港使用料交渉で事実上の市場支配力を行使したと裁決した。

 豪州モデルも完全ではないが有効な施策と考えられる。現在、欧州のほとんどの空港は民営化されて国際的な投資ファンドが参加しており、投資家の発言力は強い。しかし企業にはリスクがあり、投資の安全が保証されるわけではない。パンデミックのような破滅的な出来事の中で航空会社がすべてのリスクを背負う現在、空港だけが損失を完全に補填されなければならない理由はない。空港使用料は旅行者の負担する運賃に反映する。

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