鉄道利用勧める航空トップ

2023.02.13 00:00

 KLMオランダ航空のマルヤン・リンテルCEOは「特定の旅行では鉄道を優先し、大気が汚染されるフライトは控えるべき」と自社商品の販売を否定するような発言をした。英フィナンシャルタイムズはこの発言が失言でなく、航空会社の賢明な成長戦略を示唆するものとして背景を報じている。

 鉄道はクリーンな輸送手段として、1人当たりのエネルギー効率が空の旅より12倍優れ、鉄道インフラ建設、維持の支出を考慮しても環境に優しい。しかし欧州連合(EU)域内のすべての航空旅客を鉄道に切り替えるのは非現実的だ。ベルリンからミュンヘンまで高速鉄道で5時間近いが空路なら1時間強。このルートで鉄道が運べる人数は現在の便数と定員を基準にすると航空乗客の26%に過ぎない。移動時間ではEU域内のすべての空の旅は約半数が鉄道で8時間以上かかる。

 欧州には多くの主要都市を結ぶ優れた鉄道網があるが、鉄道が飛行機と競合する短いルートでは高速鉄道だけが現実的な航空便の代替手段になる。しかし高速鉄道ネットワークは「接続不十分な国内線の効果のないパッチワーク」(18 年欧州会計検査院報告)だ。低料金の鉄道運行会社の不足、複雑な発券システム、ポイントツーポイントの手荷物取り扱いサービスの欠如など多くの障害がすべて鉄道旅行と国際旅行の連絡を望む乗客の妨げになる。あるコンサルタントの推計では、これらの障害が克服され1000㎞未満の空の旅がすべて鉄道に移行しても旅行が約4時間長くなって、航空による二酸化炭素の削減は5%未満になる。

 主要な欧州内空港の重要な問題は発着スロットの不足だ。オランダ政府が排気ガスを削減するためにハブのスキポール空港を発着する年間フライト数を44万回と10%カットしたことからKLMにとって発着スロットの有効利用はますます急務になっている。レガシー航空の短距離路線の大部分はそれ自体で利益を上げていないが、収益源である長距離路線へのフィーダーとしての役割がある。

 赤字はローコストキャリア(LCC)との競争が激しいことが主な原因だ。従って短距離路線を捨てて空いたスロットをより収益性の高い長距離路線に利用する方が得策だが、そのためには鉄道ルートでシームレスのチケッティングとチェックインサービスが提供され自社のハブに旅客が接続できる必要がある。OAGによれば、世界の収益の高いトップ10路線のうち7路線が長距離の国際フライトだ。

 レガシー航空は鉄道をうまく自社商品と統合し、発券、顧客ロイヤルティープログラム、運賃管理、付帯サービスの専門知識を鉄道部門に注入できれば新たな好機になる可能性がある。鉄道と緊密な関係を模索する航空会社はKLMだけではない。ルフトハンザ・ドイツ航空やオーストリア航空なども同じ動きをしている。

 ドイツ鉄道はスターアライアンスの最初の非航空会社メンバーになり、アライアンス全体でフライトと乗り継ぎを共同販売する。航空会社も鉄道チケットを取り扱い手数料が得られる。リンテルCEOの発言は、航空会社と鉄道事業者の融合で旅客に適切なサービスを提供できれば、重要なフィーダールートで価格競争に対抗する有効なツールになることを示唆している。

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