ブランドとは感動の鮮度

2022.11.21 08:00

 京都で知り合った知人から、母親を連れてぜひ欧州旅行をしたいと連絡があった。そこで、あまり知られていないドイツ近郊の古城巡りと、パリでの特別なディナーを提案してナビゲートさせていただいた。

 この古城は1000年以上の歴史をもつ由緒ある歴史的な建築物でもあり、日本の天皇・皇后両陛下と上皇ご夫妻も訪問されている。その写真もこのたびリニューアルされた館内で拝見した。コロナ禍で時間と予算が余っていたのか、あまりの立派すぎる補修工事の完成度には驚きつつも、個人的にはわびさび感まで減少していたのは残念だった。だが、「すごい、すごい」と大層喜んでいただけたのは幸いだった。

 その道中でのこと。私のぼろぼろの中古車で、決して快適とは言い難い車中から、「うわあ!」と声が上げった瞬間が2回ほどあった。1回目は高速道路のトンネルを抜けた瞬間、眼前に地平線まで広がった開放的で青い空と、緑豊かで太陽を目一杯浴びた丘陵地帯の景色が飛び込んできた時。そして2回目は、古城近くのなんということはない小さな街並みでの小川沿いの紅葉エリアを通過した際のことだ。

 こんな日が来るなんて。こんなものが見られるなんて--。そう、知人のお母さまは繰り返していた。

 ここで感動するかなあと一瞬思った。こちらでは紅葉は身近なものなので、わざわざ遠出をしてまで見に行く欧州人はほとんどいない。が、私自身、最初にこの地に住み始めたころ、まったく同じ感動を覚えていた。慣れというものは実によくないものだと素直に反省した。

 人生でより多くを見たり体験したい。これは恐らく人間のもつ本能だ。アフリカ大陸で誕生した人類の祖先も、単に食糧やより住みやすい場所だけではない好奇心という原動力で、地球上に居住地域を拡大してきた。

 しかし、感動というのは、どうしてこうもすぐに色あせたりするのだろうかと、今回ふと考えさせられた。

 パリに移動してから、夜の定時のエッフェル塔フラッシュを見たいというので、ディナーを早めに切り上げて、タクシーで塔の麓まで飛ばしてもらった。すると、そこにはバスでその時間ぴったりに駆け付けた多くの観光客ですでにごった返していた。私自身はといえば、ぼんやりとその観光客たちの様子を観賞していた。やはり、過去にすでに体験したものへの感動は確実に鮮度が落ちていた。

 今回のことは旅行サービスにおいてリピートという指標がいかに困難であり、しかし重要であるかということを強く認識するよい機会ともなった。人間は成功体験を感じた際に、次回にも同じような感動を期待する。だから、リピートする。長年変わらないハワイの人気も、ここにその秘密があるのだろう。

 これは旅行に限らずあらゆる商品・サービス、究極的にはブランディング戦略において、非常に重要なポイントである。

 ブランドとは約束、コミットのことで、何をコミットするのか、その約束をどう担保(確約)できるのかでその力が決まる。私の愛車はドイツメーカー製で30年以上前の車だが、ブランド力ではいまだ世界トップクラスで、下手をすれば新車より高い値段がつく。この自動車メーカーぐらいの信頼と高揚感を出せるサービス、つまり鮮度の落ちない感動を与え続けられる仕事をしたい。

 パリからの帰り道、TGVの車窓から、見慣れた、しかし素晴らしいフランスの田舎の丘陵地帯を見ながら、そう強く思った。

荒木篤実●パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。マー ケティングとITビジネス のスペシャリスト。ITを駆使し、日本含む世界の地場産業活性化を目指す一実業家。

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