『終着駅へ行ってきます』 鉄道の旅本来の楽しみをゆったりと

2022.10.24 00:00

宮脇俊三著/河出書房新社刊/990円

 「窓に顔を寄せていると、ゆっくりとポイントを通過するたびに股の下から線路が分蘖(ぶんけつ)し、それをくりかえしながら構内が広がってゆく。いいものである」(『門司港』より)

 ああ、鉄道の旅だ。いいねえ。

 『時刻表2万キロ』(1978年)など数多くの紀行書を世に出し、鉄道紀行文学というジャンルを生んだ宮脇俊三氏。雑誌『旅』に82年から83年に連載された紀行書が新装版で発売され、さっそく手にした。

 北は根室(根室本線)から南の枕崎(指宿枕崎線)まで26の終着駅を訪ね、道中の駅や朝市の活気、人との触れ合いを描写、という王道だが、著者の感情が先行するユーチューブ的現代の紀行エッセイに慣らされた目からすると、その文章のさっぱりとした美しさと洗練に心をつかまれる。

 ページをめくりながらチェックしていたのはグーグルマップ。40年前のこの駅はどうなっているかと確認するのは楽しくもあり、寂しくもある。特に北海道は掲載5駅のうち残っているのは根室だけ。だがグーグルマップを見ると歴史遺産として保存された駅も全国に多く、コメントからは鉄道への人々の愛が伝わってきてほっこりする。女川のように自然災害の犠牲となった駅、伊勢奥津のように廃駅危機を乗り越え地元の努力で保たれた駅、境港や氷見のようにマンガで町おこしをした駅……あれから40年後の終着駅、著者がいま見たらどんな感想を抱くだろう。

 カメラ機能やSNS の発達で一部の暴走が目立つようになり、ネガティブな言葉として扱われることも増えた「鉄オタ」。本来はこんなゆったりとした時間と空間を楽しむものだったよなあ、としみじみ。乗りたい路線、降りたい駅があるうちに、あちこち旅したい。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。

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