『PERFECT DAYS』 日本を考える1つのポイントに

2024.01.29 00:00

ヴィム・ヴェンダース監督/ビターズ・エンド配給/2023/日本
12月22日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー!

 朝早く起き布団をたたみ、鉢植えに水をやり歯を磨き顔を洗い、缶コーヒーを1本買って車に乗り込み、気分で選んだカセットをセットし清掃仕事に向かう。現場は都内各所の公衆トイレ。終業後は自転車で銭湯に行き地下街で一杯飲んで、文庫本を読み眠りにつく。

 本作は簡単に言うと、この初老の独身男・平山の代わり映えしない日常を追っただけの作品なのだが、世界各地で絶賛され、平山を演じた役所広司はカンヌ国際映画祭で男優賞を受賞した。

 代わり映えしないとはいっても、さざ波は立つ。同僚の恋、ホームレスのダンス、飲み屋の女将の歌声、古本屋の店主の書評……極端に無口な平山だが、愉快な出来事に緩む口元、木漏れ日の美しさに輝く目は内面の豊かさを物語り、そんな彼だから本音を吐露する人もいる。家出した姪のニコもその1人で、2人が深く語り合うわけでもないが、ニコを通じわれわれは彼の過去を透かし見て感動と共感が生まれる。

 名匠ヴィム・ヴェンダースが本作を監督したきっかけは、東京の公衆トイレを刷新するプロジェクト「THE TOKYO TOILET」のプロモーション。リサーチ中に日本の清潔さと職人意識に強い印象を受けた監督が1つの美しい生き方として「平山」を生んだという。

 日本では「現実味が薄い」といった感想が見られるし、実際、トイレ掃除で手袋をしてないとか清貧すぎとかツッコミどころは多いが、外国人が見たニッポンと考えると納得のファンタジーだし、ほぼセリフなしで人生の機微を表現する役所広司の演技だけでも一見の価値はある。日本の公共施設の清潔さは海外でもよく話題になるが、それが1本の映画になるほどの印象を与える、というのはあらためて「日本」を考える1つのポイントになった。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。

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