『トルコ現代史』 存在感増す背景に帝国600年の貫禄

2024.03.25 00:00

今井宏平著/中央公論新社刊/990円

 休暇で2週間トルコと北キプロスに行ってきた。北キプロスの観光化も驚いたが、それよりなにより驚いたのがトルコの観光費用の高騰だ。

 トプカプ宮殿1500リラ(7000円超え)、アヤ・ソフィア25ユーロ、カッパドキアの郊外ツアー1日72ユーロ。

 目ん玉飛び出る、とはこのことだ。いずれもトルコ国民は7~8分の1か無料、あるいは全国共通博物館年パス購入で限りなく無料に近くなる。国際空港内の物価高もえげつなく、エルドアン大統領、取れるところからガッツリいく。私はいわゆる“外国人料金”に賛成の立場だが、例えば京都がここまで振り切るのはまず無理だろう。

 トルコを見ていて最近特に感じるのは、外交がうまい、というか「いいとこ(目立つとこ)で出てくる」。紛争の仲介役だったり、自国の意思表示だったり。ロシア、中国、イラン、欧米、どことも仲良くなりすぎず大げんかもせず。混迷する世界のなかで、今後トルコの存在感て大きくなるんだろうな。

 というわけで、正直、建国の父ムスタファ・ケマルとエルドアン大統領しか知らないトルコの近代をおさらいしようかなと、現代史を分かりやすくまとめた本書を手に取った次第。

 オスマン帝国の否定と政教分離を目指した当初の国家方針から、軍部のクーデターや改革を経て、自らを「ブラック・テュルク(貧しい地方在住の保守的で宗教心が篤い層)」と位置付け支持を集めたエルドアン時代が到来した。入場料の極端なトルコ人優遇もその一環なのだろう。内政問題も抱えつつ、外交にも積極的。時折見せる堂々たる「大国」っぷりは、オスマン帝国600年の貫禄のなせる技なのだろうなあと、トプカプ宮殿のきらびやかな財宝を眺めながら再認識したのであった。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。

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