英VAT免税制度廃止の影響
2022.05.16 00:00
昨年1月から旅行者におなじみの英国の付加価値税(VAT)免税ショッピング制度が、欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)に合わせて廃止されている(VATは日本の消費税に相当)。往時、ロンドンのヒースロー空港では有名ブランド店で買ったカシミヤのコートなどを国外に持ち出す検査を受けてリファンドの申請をする日本人がよく見られたものだ。免税制度廃止の理由は、ブレグジットで欧州大陸からの旅行者が免税資格を利用できる外国人になり、関税局の負担とコストが増大する懸念からだとされている。多くはVAT20%が免税される酒やたばこが目的で、アラブの高額消費者とは異なる旅行者である。
アフターコロナの時代には富裕な旅行者の増加が期待される。しかしVAT免税制度廃止は、英国のツーリズムだけでなく、小売業、空港、引いては製造業まで悪影響を与えるだろう。現在の英国は海外から来訪する旅行者に免税の買い物を提供しない欧州で唯一の国になり、近隣諸国との競争上不利な立場だ。最近の調査では、制度廃止で英国の魅力が低下し、高額消費の外国人旅行者お気に入りデスティネーションの地位を失いつつある。
英フィナンシャル・タイムズは以下のように報じている。グローバルブルーが湾岸諸国旅行者の21年のEU域内ショッピング行動を制度廃止前の19年と比較調査した。それによると21年にEU域内で買い物をした湾岸からの旅行者の5分の1は19年に英国だけで買い物をして年間1人平均2.4万ユーロ使った。これが21年に英国内支出はほぼゼロになった。また、21年にEU域内で買い物をした3分の1近くが19年には欧州大陸と英国の両方で買い物したが、21年にEU域内での1人平均年間支出は40%増加して2.2万ユーロになった。国際リテール協会(AIR)によると、英国はフランスとイタリアを含む近隣諸国に20%の価格アドバンテージを与え、従来英国経済にもたらした年間284億ポンドが欧州大陸に移っている。
19年にEU域外からの旅行者は英国で178億ポンドを使った。そのうち30億ポンドは(VAT免除対象の)物品ショッピングで、残りの148億ポンドはVAT免税対象外のホテル、飲食、運賃、文化、娯楽など非リテール(サービス部門)に使われVATを約30億ポンド増やした。英国の魅力喪失でこの非リテール部門の消費が15%落ち込むと、財務省が徴収を予測するVAT収入4億ポンド以上が失われると推計される。免税措置廃止の直接の影響として、英国中の商業地区と空港で2万人の仕事がなくなるだろう。欧州域内で競争が激化している英国の空港も旅行者減少を懸念する。
コロナの影響で苦境にある英国の目抜き通りと商店を再び富裕な海外旅行者の主要デスティネーションにするため、3月に事業者は免税ショッピング制度廃止を見直すよう政府に要請した。このほか、AIRは海外からの来訪者に対する電子的ビザ免除制度の改善も要望している。現在、海外旅行者がVATを免除される買い物は母国の自宅に商品が販売店から直接送られる場合だけだ。それでは購入した商品を現地ですぐ利用できないし、運送費もかかり、オンラインショッピング時代に旅行者のメリットはほとんどない。
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