スロットの使用率基準巡る攻防
2022.03.28 00:00
乗客がゼロ、あるいはほとんど空席のフライトは幽霊フライトと呼ばれる。パンデミックで増えているのは、航空会社が使用するか放棄するかの発着枠使用率基準を守らなければならないからだ。欧州連合(EU)はパンデミックが始まった20年3月から通常の80%を50%に下げ、英国も同様の水準になっている。政府が航空会社に空港の離発着回数を配分する発着枠(スロット)は航空会社の最も価値ある資産の1つで、発着便数の多い空港の発着枠は数千万ポンドで売却できるという。
1月24日に英運輸省は、3月27日から発着枠使用率基準を50%から70%に引き上げ、使用しなければ発着枠返還を求めると発表した。その結果、英国の航空会社は定期便の増加を強いられるとみられている。それに対してIATA(国際航空運送協会)は英国が世界最高の使用率基準を決めたと非難する。多くの航空会社は夏期の国際需要が平均70%に回復すると考えていないからだ。
EUは冬期の使用率基準を英国より低い50%と定め、夏には64%に上げると発表した。それに不満なルフトハンザ・ドイツ航空は冬期、半分空席の1万8000便の不必要な運航を強いられ、大気汚染を懸念すると発表して反響を呼んだ。ブリュッセル航空も冬期に3000便の乗客ゼロのフライトを飛ばすと発表して気候変動活動家から批判された。
欧州委員会(EC)は航空会社が環境汚染に鈍感な数千の空席便を運航していると警告を発したが、航空会社側は発着枠使用率基準に責任があると反発する。ベルギーの運輸大臣は少なくとも21年冬期と22年夏期だけでもコロナ危機が終わるまでの基準免除をEUに求めた。
IATAによると航空業界は世界の二酸化炭素(CO2)の約2.5%を排出する。温暖化防止のため多くの政府は削減目標を掲げながら基準の免除は認めていない。主要空港に発着枠を持つルフトハンザやブリティッシュ・エアウェイズなどフラッグキャリアは採算が取れなくても運航を続ける予定だが、発着枠を失わなければフライトを減らすだろう。
航空会社の反発に対して英運輸省は新たな基準が幽霊フライトの減少に役立つと同時に、発着枠は需要があるところで使われると反論した。EUも現在の基準を擁護しており、フィナンシャルタイムズによるとEU運輸コミッショナーは、基準免除を求める航空会社の圧力に抵抗している。
同氏は、現在の基準が空港、消費者、航空会社間の公正な競争を守るために重要で、航空会社に空席便の運航を防ぐために必要なフレキシビリティーを与えているという。航空会社は旅行制限が発出されている期間の不可抗力の抗弁ができ、発着枠を利用する必要はなく、目的地が新しい渡航禁止令の対象期間は適用を除外しているからだ。
一方、政府方針を支持するライアンエアーやウィズエアーはパンデミックを利用して他社発着枠の獲得を仕掛け、完全な自由競争復活を狙う。長距離路線を運航する航空会社はパンデミックの打撃を受け多数の路線を削減しており、使用率基準の一定期間猶予は切実な要求だ。英国で第2に発着便数の多いガトウィック空港はコロナ禍の間に発着枠の多くが未使用のままで、経営不振の航空会社にはその維持が深刻になっている。
グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。
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