巨額負債と政府支援

2021.04.26 00:00

 世界の大手航空会社50社は3月までに全体で3000億ドル以上の純負債を積み上げており、今後は売り上げ減によるキャッシュフロー問題と政府の救済融資の返済に向き合わなければならない。資金不足は競争上必要な企業のフリートとプロダクト投資を遅らせ、空前の危機からの急速な回復の足かせになる。英フィナンシャルタイムズは航空業界の現状を概ね以下のように伝えた。

 米国のビッグ4(ユナイテッド航空、アメリカン航空、デルタ航空、サウスウエスト航空)は政府からの600億ドルの支援によって資金調達できた。米国の航空会社グループは従来から最高の利益を上げており、現在の高負債は欧州のような問題にはならないとされる。格付け機関ムーディーズは、ワクチンが今年中に普及すれば米国の航空会社が負債の多くを返済できると見ている。

 欧州ではエールフランス-KLMとルフトハンザ・ドイツ航空が数十億ユーロの政府支援で支えられてきた。一方、ブリティッシュエアウェイズの親会社IAGは株主から275億ユーロの出資、政府保証の27.5億ユーロ融資を受け、3月には12億ユーロの社債を発行した。資金を急速に集めることができたのは、危機前の航空業界の経営が全体的に悪くなかったことに加え、08年の金融危機と違い、市場が最初から開かれ世界的な低金利があったからだ。

 20年に航空業界は全体で債券市場から記録的な420億ドルを調達した。低金利が利潤追求の投資家を魅惑したわけだが、航空会社復活に信頼が残っているともいえる。しかし、欧州のフラッグキャリアに対する政府支援がすべて順調だったわけではない。フランスとオランダの両政府が共同株主のエールフランス-KLMは、20年の純損失が71億ユーロにのぼり、その責任をめぐる両国政府の議論が続き、2月末に増資の可能性を含めた妥協の見通しがついた。政府の財政支援はルフトハンザとのバランスから欧州連合(EU)の承認が必要になる。各国の航空会社は政府保証による融資で救われたが、生存力の弱い会社は支援対象外でノルウェー・エアシャトルは昨年破綻した。

 IATA(国際航空運送協会)は主要国でワクチン接種が成功しても今年の航空旅行回復の見込みは不明確で、業界が期待するより長期の支援が必要と予測する。IATAによると、主要航空会社の21年の社内現金流出は950億ドルと巨額で、年末までに手元現金が黒字になるとの予測は楽観的過ぎる。その改善には今年さらなる負債増で賄うほかない。危機以前に戻るには借金返済力が重要だ。

 それでもひとたび旅客が戻ってくれば、航空会社はバランスシート改善を開始できる。しかし欧州ではポストコロナの競争でも航空会社の多くが負債との闘いで消沈しており、ライアンエアーのような航空会社が他をリードするようになると予想される。同社は低コストとフレキシビリティーがある。マイケル・オレアリー社長は、政府資金で生き延びるいくつかの欧州航空会社を政府資金の麻薬中毒者(ジャンキー)と呼んだ。彼は国営航空会社の政府による救済に異議を唱えて欧州司法裁判所に訴えたが敗訴した。ワクチンパスポートなど夏の航空需要回復に期待がかかるが、バランスシートが改善できない航空会社の未来は暗い。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。

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