国境再開見据え準備進む 海外教育旅行の価値、変わらず維持

2020.12.21 00:00

コロナ禍により国境をまたぐ移動が制限されたことは、人との交流や異文化理解の価値を再認識するきっかけとなった。グローバル人材が必要とされる国際環境や海外教育旅行の重要性も変わらない。来るべき海外教育旅行の再開へ向けた準備が各分野で進んでいる。

 コロナ禍により国境をまたぐ移動が各国で規制されている現在、海外旅行はほぼ停止状態にある。健康と安全性の確保が最優先事項となる海外教育旅行では影響の深刻さはなおさらで、業務渡航や観光旅行より需要回復が遅れる可能性もある。しかし、中学・高校生年代における国際理解の重要性や海外教育旅行の価値が、コロナ禍によって損なわれることはない。

 文部科学省は20年度以降の教育指針となる学習指導要領の改定で、子供たちの生きる力を重視する姿勢を打ち出しており、こうした力を鍛える方法として教育界では海外教育旅行への期待が高まっていた。また、大学入学者選抜改革も、グローバルな視点を持った若者の育成への注目度を高める理由の1つとなっている。 

 たとえば文科省が7月にまとめた「高校生の国際交流の促進について」では、「グローバル化が進展し、グローバル人材の育成がさらに求められているなか、各学校段階において、グローバル人材育成に向けた取り組みを支援する必要がある」とされている。支援内容に挙げられているのは、留学促進や留学生受け入れ拡大に関するものが中心だが、海外研修(短期留学)の支援プログラムも用意。コロナ禍の影響についても言及し、短期を含めた留学の機運を絶やさぬよう協力を求めている。

オンラインで情報発信強化

 コロナ禍にあってもなくならない海外教育旅行へ
の期待を受けて、JATA(日本旅行業協会)とアウトバウンド促進協議会(JOTC)は、国土交通省や観光庁と共催で海外教育旅行オンラインセミナーを実施。「理想の海外教育旅行を探求する~コロナの時代のコンテンツ構築法~」などをテーマに講演を行った。

 観光局や関係機関も動いている。クイーンズランド州政府観光局とケアンズ観光局は修学旅行や語学研修でケアンズを訪れる学校を支援するプログラムを実施している。ケアンズやグレートバリアリーフ地域は日本からの教育旅行を数多く受け入れてきており、観光局側も長年にわたり教育旅行の誘致に力を入れてきた。19年からは、日本など3カ国の小中高生が集う国際研究発表会「グローバルリンク・クイーンズランド」をモートン島タンガルーマで開催するなど、クイーンズランド州内では日本からの教育旅行誘致の成果も上がりつつある。現在は日本から教育旅行を送り出せない状況にあるが、コロナ禍が収束し国境が再開された後に速やかに需要を回復できる対応策を新たに準備。来年7月1日から1年の間にクイーンズランド州への教育旅行を実施する学校を対象に支援プログラムを用意することとした。

 台湾修学旅行支援研究者ネットワーク(SNET台湾)はユーチューブチャンネルを利用し、台湾修学旅行アカデミーを配信している。中高生が台湾を知る手助けとなるために、日本台湾学会の研究者を講師に招いてオンラインで講演を行ってもらうという試みだ。8月から9月にかけて5講演を1週間に1度のペースで実施し、講師が中高生との対話形式で講演した

 また、東南アジア各国と日本の交流促進を図る日本アセアンセンターは8月、旅行・学校関係者を対象に最新ブルネイ観光ウェビナーを開催。ブルネイの旅行者受け入れの最新情報や旅行の基本情報を紹介したほか、3月に現地の教育旅行事情を視察した日本修学旅行協会の竹内秀一理事長が教育旅行先としてのブルネイの魅力を説明した。

旅行会社もセミナー開催

 海外教育旅行の後発組としてこの分野に力を入れるエイチ・アイ・エス(HIS)も9月にオンラインセミナーを開催している。セミナーはカナダをテーマに「留学と海外研修の未来のカタチはどうなるのか」と題して行われた。現地教育機関での勤務経験がある現地社員が参加。集団での行動制限やソーシャルディスタンスの確保が当たり前になったウィズコロナ、アフターコロナの時代に、どのような教育旅行形態が想定されるかについて見解を披露した。

 旅行会社もコロナ禍の環境下で今できることを見つけ出して再開に向けた準備を進めている。日本旅行は12月5日、西オーストラリア州政府観光局との共催で教職員向けのパース・オンラインセミナーを開催した。セミナーでは経験豊富なガイドが観光スポットをオンラインで紹介し、日本の生徒が訪れた際にどのような時間を過ごせるかをリアルに実感できるよう工夫した。また現地の大学生がセミナーに参加し、教職員が彼らと実際に交流してみることで、生徒がどのような国際交流を体験できるのか具体的なイメージを描ける機会を提供した。

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