『観光は滅びない』 再始動の可能性を考察

2020.12.07 00:00

中井治郎著/星海社刊/900円+税

 急転直下。

 今年の京都を熟語で表現せよ、と言われたらこれがぴったり。1年前の京都にいた誰が現在の街の様子を想像できただろうか。五輪開催でさらなるインバウンド増、増収予定の宿泊税を使ってのインフラ整備、行政が特に力を入れている富裕層誘致に大忙し……のはずだった。喫緊の課題といえばオーバーツーリズム……のはずだった。

 ところがだ。「事態は思わぬ方向に展開し、とつぜんすべてが『解決』してしまったのだ」(本書より)

 今回ご紹介するのは、前作『パンクする京都』で京都のオーバーツーリズム問題を考察した社会学者の著者が、コロナ禍における京都の今を解説、未来を考える1冊だ。前作に続き、わが「京町家 楽遊 堀川五条」も現場の声としてインタビューにお応えさせていただいた(ので、ホントはここで紹介するべきではないかもだが、業界人なら面白いはず、と考えまして)。

 本書はビフォー・コロナの振り返りから始まり、インバウンド大幅減が今の日本にもたらすインパクトを解説。さらに京都在住の著者の目線で「コロナの京都」をルポし、日本そして京都の観光再始動の可能性を考察する。

 自分もけっこうな当事者なのだが、読んでいて「負けるな〜」とエールを送りたくなったのは、ゲストハウスの運営者たち。コロナ禍前から行政や市民からの風当たりは強く、最大の魅力である人との触れ合いがコロナ禍で封じられたうえ、GoTo トラベルの恩恵は価格的に受けにくい。ゲストハウスは1つの文化だ。素敵な宿の数々を思い浮かべながら、なんとかこの災厄を乗り越えてほしいと心から願った(人のこと心配してる場合じゃないけど)。みんなでがんばって乗り切ろうぜ!

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。

関連キーワード