検証リトリート旅 群馬県の滞在商品はなぜ成約ゼロだったのか

2023.12.04 00:00

(C)iStock.com/tenjox

リトリートの聖地を目指す群馬県が打ち出した3泊4日の旅行商品の売れ行きが思わしくない。7月の発売以降、3カ月間の成約はゼロ。知事が反省の弁を述べるに至り、商品戦略の見直しが避けられない状況だ。その要因を客観的視点で捉え、観光産業が目指す滞在型商品の鍵を学びたい。

 群馬県は21年、目指すべき20年後のありようをまとめた新・群馬総合計画の中で、観光の新たな魅力創出を目標に掲げた。軸としたのは、ニューノーマルに対応した観光地づくりや、新しい価値や魅力の創造・発信に取り組むこと。この方針に沿って、群馬県を「リトリートの聖地」にするというプランを打ち出したのが、当時、任期3年目を迎えた山本一太知事だった。

 県はリトリートの聖地化構想を見据えて21年中に健康志向宿泊プランを具体化し、旅行予約サイト「楽天トラベル」で販売を開始した。宿泊プランは県の特産である上州地鶏を使った食の魅力を中心に、県内主要温泉地の14の宿泊施設や雪遊び・カヌー等のアクティビティーを組み合わせたのが特徴で、楽天トラベルの上州地鶏特集ぺージに連動して予約できる動線を用意した。この流れで本格的なリトリートへの取り組みが始まった。

 21年12月の定例記者会見で山本知事は健康志向宿泊プランについて触れ、「世界的にリトリートがブームになっているので、群馬県の温泉地にしっかりとしたリトリートをやりたい人たちを受け入れるような、ハードでもソフト面でも受け入れ体制ができれば、群馬県には非常に大きなポテンシャルがあると思う」と思い入れを語った。

 群馬県がリトリートに大きな期待を寄せるのは、課題だった長期滞在型観光の促進を解決できる可能性を見いだしたことが理由の1つだ。県によれば、県内宿泊客の約95%が1泊2日であり、2泊以上はほとんどいないのが現状だ。東京から新幹線で1時間という距離は遠過ぎず近くもないという中途半端な地理的条件で、なかなか長期滞在の目的地として旅行者の目を引き付けられない。しかし、リトリート旅行が日本に定着すれば群馬にも長期滞在誘致の勝算が生まれる。県には旅行商品の構成要素となる温泉や食、自然などが豊富にそろっていると見立てた。

 群馬県はリトリートの定義を「日常生活の場から離れた別の場所を訪れ、心と体を癒やし本来の自分を取り戻すために、ゆったりとした時間を過ごす長期滞在型の観光」としている。また政策的には、県勢の発展や県民幸福度の向上を図るために群馬をクリエイティブの発信源やレジリエンスの拠点にする政策と並び、リトリートの聖地化を3本柱の1つに挙げている。温泉や食、伝統文化の魅力を生かし、心と体を癒やす滞在型観光の一大拠点を目指そうというわけだ。

今年度も予算3億円を投入へ

 山本知事のこの肝入りプロジェクトは着々と進んでいる。22年度予算では新規でリトリート推進事業に約2億8000万円を計上。環境整備に約2億円を割き、上限1億円の補助金(補助率2分の1)を用意。そのほか、群馬の温泉パワーを紹介するPR動画の作成やユーチューブ番組の配信、温泉パワーの調査・分析などにも取り組んだ。

 続く23年度予算でもリトリート推進に約3億円を確保した。環境整備などを継続する一方、リトリートブランド構築の一環として3泊旅行の商品化にも1100万円余りを投じた。これとは別にツーリズムイノベーション事業に約5300万円を投じ、新たな観光スタイル構築の一環としてリトリートの聖地を目指したペットツーリズムやユニバーサルツーリズムの取り組みを重点的に支援する方針も打ち出している。また体制面では、4月に観光魅力創出課にリトリート推進室を新設し、推進体制の強化も図った。

 こうしたリトリート戦略の具体的な成果として結実したのが「リトリートぐんま」の商品化と販売だ。

【続きは週刊トラベルジャーナル23年12月4日号で】

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