『メガトン級「大失敗」の世界史』 人間のあんぽんたんぶり思い知らされ

2023.11.20 00:00

トム・フィリップス著/禰冝田亜希訳/河出書房新社刊/1078円

 人間はやらかす生き物である。うっかり重要なフォルダを削除してしまったり、大事な予約の日にちを間違えたり。冷や汗をかいたことは誰しも1度や2度はあるはずだ。だがそこから生まれる「失敗しない工夫」が人類を発展させ、生き延びさせてきた。

 本書は、歴史に残る人類のとてつもない失敗をユーモラスにひもとく列伝だ。転落死したと推察される人類の祖先ルーシーの例からはじまり、認知のゆがみが起こす災難「人間の脳はあんぽんたんでできている」、農業をきっかけに環境をいじったことでの失敗「やみくもに環境を変化させたつけ」、外来種を悪気なく導入したことで起こる災害「気安く生物を移動させたしっぺ返し」など8つの章から成る。

 環境問題に関わる失敗は特にキツいものがある。全体が大失敗だった毛沢東の大躍進政策は穀物を食らうスズメを撲滅したが、天敵が消えたイナゴが大発生し続く大飢饉の原因の1つになった。巨大な石像を運びカヌーをつくるため木々を伐採し尽くしたイースター島は困窮しあっさり征服された。

 「統治に向いていなかった専制君主たち」の章では、ノイシュヴァンシュタイン城で歴史に名を残したルートヴィヒ、盗難癖のあったエジプトのファルーク1世などが登場。「人類の戦争好きは下手の横好き」の章では、スペインの連絡ミスでアメリカに占領されたグアムやロシア戦線で大敗したナポレオン……。いやはや失敗だらけである。

 ユーモアや個人的見解を多く交えた文章は時に遠回しで回りくどく感じられることもあるが、人類のあんぽんたんぶりにあきれながら、いま現在世界で進行中の失敗に思いをはせたり、(自分まだマシかも……)なんて謎の勇気も得られるかもしれない一冊だ。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。

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