『嫌われる勇気』 悩める人々へ効果ある一冊

2023.05.15 00:00

岸見一郎・古賀史健著/ダイヤモンド社刊/1650円

 コロナ禍のトンネルも出口が見えてきた昨今、突然増えた人流に京都の観光関係者はきりきり舞いだ。タクシー、リネン業者、飲食店、土産物店、宿泊業。明らかにどこもキャパオーバー。耐え切れず離職する人も多いと聞く。

 一方、学生バイトたちの話を聞くと、サークル活動や対面ゼミ、飲みの席が3年ぶりに復活したことで、人間関係に悩むことも増えたんだとか。

 てなわけで最近ちょいちょい、人間関係のお悩み相談や愚痴を聞くのだが、たまにこんな本を薦めてみたりする。

 13年刊行のベストセラーで、いまだに売れ続けているという本書は、心理学の巨匠アドラーの思想を哲学者と青年の対話形式で解説した一冊だ。

 「自らの生について、あなたにできるのは『自分の信じる最善の道を選ぶこと』それだけです。その選択について他者がどのような評価を下すのか、これは他者の課題であって、あなたにはどうもできない話です」

 これホントに多いお悩みという気がする。幸せになるには嫌われる勇気を持つこと、人生は他者との競争ではない、と説く哲学者に青年は反発するが、次第に論破されていく。「他者を『評価』しない」「いま『ここ』を真剣に生きる」「人生はいつもシンプルであり、深刻になるようなものではない」

 特に悩んでいない人なら「そういう考え方もあるよね」と読み飛ばしそうだが、いままさに困っている人には効く一冊と思う(私も初読のときにずいぶんと響いたクチで、付箋だらけにしたことはナイショである)。

 結局は気の持ちようとも読めるが、承認欲求にとらわれていたり、上司や部下との関係に悩み中の人にはヒントになるかも。賛否両論はあるが、ベストセラーも納得の説得力ある一冊だ。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。

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