『チェンソーマン』 社会問題を壮大なエンタメに忍ばせ

2023.01.16 00:00

藤本タツキ著/集英社刊 1月4日に最新刊(13巻)発売

 あけましておめでとうございます!

 新年一発目はアニメも大人気の漫画『チェンソーマン』でまいりましょう。

 舞台は現代の日本らしき場所。さまざまな悪魔が人々を脅かす世界で、これを駆除するのが政府の公安や民間のデビルハンターだ。主人公のデンジはデビルハンターとして働く極貧の少年だが、ある日悪魔に殺されてしまう。同居していた犬ころのような悪魔ポチタは彼の心臓を乗っ取り、デンジはチェンソーの悪魔として復活。特殊な存在として公安に雇われた彼は、本格的な悪魔駆除に身を投じていく。

 まともな教育も受けずモラルの基準もないデンジと悪魔の戦いはルール無用の血みどろで、人気キャラも次々と死んでいく展開は、健全なバトル(?)が売りの少年ジャンプ掲載作品とは思えないほどのエグさだが面白い。

 作者の藤本タツキは昨年、漫画に青春を賭ける少女たちの物語『ルックバック』を発表し大好評だったが、京都アニメーション放火事件などを想起させる展開は読者の感情をかき立てるものがあった。チェンソーマンでも若者の貧困やいじめ、ヤングケアラーといった重い社会問題を忍び込ませつつ、みごとな画力と仕掛けに満ちた構成でエンターテインメントに落とし込んでいるのが素晴らしく、一種の天才なのだなあとほれぼれしてしまう。

 ちょうど同じタイミングで01年連載開始の名作『鋼の錬金術師』を初めて読んだのだが、当時の「正義は最後に悪に勝つ」という揺るぎない価値観に支えられた世界と、善悪ごちゃまぜで救いも判然としない本作の世界とでは明らかに空気が違い、価値観や時代の変化をひしひしと感じさせられた。

 アニメも好評で現在原作は第2部が進行中。シビアな展開に目が離せない。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。

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