『旅の効用 人はなぜ移動するのか』 自分の核を見つめ直すきっかけに

2020.06.01 00:00

ペール・アンデション著/畔上司訳/草思社刊/2200円+税

 「コロナ後の世界」

 そんな言葉が聞こえるようになってきた。時期はわからないが回復に向かう世界の中、人はさまざまな事との向き合い方を再構築する必要がある。真っ先に追い込まれた観光業界は特にシビアな対応を迫られるだろう。

 「現実の旅よりバーチャルが主流に」「移動そのものが避けられる世界に」

 なーんて、もっともらしい予測を語る学者や事情通(?)もいるが、おまえら何もわかっちゃいねーな。

 根っからの旅好きとしては反射的に言い返したくなってしまう。好きなレストランのテイクアウト料理を食べても、やっぱりその店に行って、その場の雰囲気に包まれて食べたほうが美味しいに決まってる。現場に立って「感じる」ことの尊さは、業界の皆さんはきっとよーくご存じなはずだ。

 そんな気分で読んだのがこの新刊。著者はスウェーデンの作家・ジャーナリストで、旅行雑誌『ヴァガボンド』の共同創業者。世界を旅した経験や書物を通じて得た知見をもとに、「人が旅に出る理由」をエッセイ、論考、紀行が交じったスタイルで考察していく。

 不確実性の中に身を置く喜び、ゆったり旅をする幸福。人が旅するのは好奇心があり、無用な知識を求め努力し、世界像を拡大しようとする意思があるからだ。情報に惑わされ確実性を求める現代人にこそ、旅が効く。ツアーにはわりと否定的な著者だが、この状況下に読むと励まされたり、自分の中の「なぜ旅なのか」という核をいま一度見つめ直すきっかけになりそう。引用されていた作家の言葉が特に印象に残った。「探すのをやめないこと。旅をやめないこと。なぜなら広い世界が待っているからだ。世界が小さくなることはない」

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。