ハワイで責任ある旅行者になる体験 レスポンシブル・ツーリズム

2020.04.20 00:00

スターコンパスについて解説を聞く(ポリネシアンボヤージングソサエティ)

レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)を進めるハワイ州観光局はハワイアン航空との共催で先ごろ研修旅行を実施した。地域に根付いたNPOでのボランティア活動からハワイの歴史と文化が学べる博物館まで、責任を持つ旅行者になるための体験素材を紹介する。

 ハワイ州に訪れた観光客は19年に1000万人を超え、人口の7倍となった。自然や文化、住民生活への影響という点で注意が必要な段階になってきたことから、ハワイ州観光局はレスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)を提唱している。旅行者に対して訪問先の文化を理解してもらい、尊重した行動を求める考え方で、同局日本支局セールス&マーケティングマネージャーのキミコ・クァン氏は「秩序を持った責任ある観光客になることで受け入れ側に歓迎され、長い関係性につながっていく」と説明する。持続可能な社会という大きなゴールに向け、同局ではレスポンシブル・ツーリズムを進めるため、支援するNPO・団体による地域プログラムから日本市場向けの素材やアイデアを紹介していく。

伝統の文化や技術を今に伝える

ハワイ文化復興のシンボルでもあるホクレア号

 団体の1つが、ホクレア号の航海を通してハワイの文化を伝えるポリネシアンボヤージングソサエティだ。双胴カヌーを復元したホクレア号で1976年にタヒチへの旅を成功させ、ハワイの祖先が航海術を駆使して海を越えてきたことを科学的に証明した。以降も航海は続けられ、訪問先で文化交流し環境保全を訴えてきた。伝えているのは「自然を守る、家族を大切にすることが平和や環境を守ることになる」ことと案内してくれたクルーが話す。

 ホクレア号に乗船できる人は「航海計器を一切使わず、星と風と波から航路を読む技術を取得した人だけ」と説明を受け、伝統航海術であるスターコンパスの見方を日本人クルーのタミコ・フェネリアスさんが解説。さらに「海と空、カヌーしかない大海原ではクルーが家族のようにつながり、助け合うことが自然になる」とカヌーでの生活を答えてくれた。五感を研ぎ澄まし仲間と目的地へ向かった船の話はあらゆる層に興味を持ってもらえそうだ。

 食文化からハワイの伝統を伝えているのがマナ・アイ。オアフ島東部のカネオヘで、タロイモの大切さを子供たちに教えている。「タロはハワイの人の主食であると同時に神聖なもの。日本でお米が大事なように、どんな文化も神聖な食べ物は神様につながっている」とマナ・アイ代表のダニエル・アンソニー氏は説く。神話ではタロイモがハワイ人の祖先の兄でるため、大切にされてきたという。

ハワイの伝統的な装いで体験者を迎える(マナ・アイ)

 アンソニー氏は無農薬でタロイモを育てるため、5年かけて農地を開拓し土も改良した。敷地内には家畜がいたり、イム(蒸し焼き用に掘った穴)があったり、ハワイの生活に欠かせないティーリーフが生えていたりと、昔ながらの暮らしを目の当たりにできる。

ポイパウンディングを体験(マナ・アイ)

 伝統料理作りも体験でき、ラウラウという蒸し焼き料理とポイパウンディングに挑戦。ミネラル豊富なシーソルトを振った肉をタロイモの葉で巻き、摘んだばかりのティーリーフで包んで蒸し焼きにしたラウラウは自然の旨みがあふれ出た。蒸したポイは皮を削いで、木のボードの上でつぶし、石のすりこぎでなめらかに延ばしていく。粘り気が出てくると、芋の甘みともっちりした餅のような食感のフレッシュなポイの出来上がり。楽しみながら本物の文化に触れることができる。

 古くからあるフィッシュポンド(ロコ・エア=養魚池)もハワイの人の知恵にあふれる。漁に出ない時でも魚を確保しておける養魚池で、首長の食用に利用されていた。宅地開発などで数が減り、ノースショア、ハレイワに400年前からあるフィッシュポンドも放置されたままだった。その復元に09年から取り組むのがNPOのマラマ・ロコ・エア・ファンデーション。フィッシュポンドの文化を後世に伝えるために、修復作業を伴う学習プログラムを実施している。

池の底から石を拾う(マラマ・ロコ・エア)

 このフィッシュポンドは海水と森からの水で作られた栄養豊富な汽水域で、満潮時に入ってきた魚が成長しても逃げないように水門で調整するなど、地形を生かした仕組みが作られている。ツアーマネージャーのマックス・ムカイ氏は「魚を採りすぎることなく、自然の中で育てながら必要な時にだけ取るサステナブルな環境を400年前に作っていた」と説明する。その後取り組んだのは池の底から石を拾い集める作業。集めた石は池の壁を積み固めるのに利用。ムカイ氏が投網を披露すると見事に魚が網にかかり、池の豊かさを実感することになった。

ビーチや美術館で環境問題を学ぶ

海に入る前のレクチャー(ナ・カマ・カイ)

 海をテーマに活動するのがナ・カマ・カイ(海の子供たち)で、サーフィンの元世界チャンピオン、デュエイン・デソト氏が08年にスタートしたNPO。オアフ西部ワイアナエのポカイベイなどで子供たちに海の安全と保全を伝えるオーシャンクリニックを行う。ハワイでは海について正式に学ぶ機会がなく、「子供たちにもっと海を知ってもらい、海の環境をケアするようになってほしい」とデソト氏は話す。

 プログラムは座学とアクティビティで構成。海でどうやって身を守るか、ゴミが動物に与える影響、スターコンパスやこの地域が古代からタヒチとつながる重要な地であった逸話などを聞く。アクティビティはアウトリガーカヌー、SUP、スイミングを体験。なかでもアウトリガーカヌーはカヌーと波乗りを一緒に楽しめるハワイらしいアクティビティだ。

 食事の後はポカイベイビーチ南側に突き出たカネイリオポイントにある古代ハワイの祭祀場跡クイリオロア・ヘイアウを散策(編集部注・ヘイアウは宗教儀式が行われる神聖な場所のため礼節をもって訪れたい)。最後はビーチのゴミ拾いを行い、タバコの吸い殻がたくさん落ちていたが、ウミガメは吸い殻10個の誤飲で死んでしまうことも伝えているという。

海のゴミををテーマにした作品(ビショップ博物館)

 ハワイの歴史やポリネシア文化を体系的に学べる場所としてビショップ博物館がある。ハワイ王朝の歴史から太平洋の島々にわたる多様な展示が見られるが、ハワイの伝統文化の体験型プログラムも用意される。フラのレッスンやハワイの植物について解説するガーデンツアーのほか、ウクレレのジャムセッションなどのイベントも開催。レストランではカルアピッグやハウピアのようなハワイ料理のプレートランチもあり、ツアーに組み込みやすそうだ。同館では今年10月までサーフィンをテーマにした企画展を開催しており、海のゴミ問題を訴えるインスタレーションなども屋外に展示されている。

 今回訪れた地域団体に共通するのが、先祖から受け継いだ文化や知恵を次世代に伝えたいという強い思い。地球への思いやり、人との結び付き、先祖への敬意だ。こういった思いを持つ地域の人との触れ合いやリアルな文化体験が価値観の理解となり、責任の自覚につながる。教育旅行やSDGsの企業研修、ボランティア体験ツアーまでさまざまな可能性が考えられ、レスポンシブル・ツーリズムは本物の文化と出会えるハワイ観光の新しい方向性を示している。

取材・文/平山喜代江

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