ツーリズムの力で 日韓関係悪化を乗り越えよう

2019.10.14 01:00

いまツーリズムの力でできることは何か
(C)iStock.com/wildpixel

日韓関係悪化の影響を受けて、両国間の人的交流が大きく落ち込んでいる。日韓の観光・旅行業界双方にとって最悪の事態といえる。しかしだからこそ、いまツーリズムが育んできた力が試される状況とはいえないだろうか。

 日韓関係はかつてない危機に直面している。両国の政府間は国交正常化以来、最悪といわれる状態で、民間レベルでも日本製品の不買運動が活発化。観光・旅行業界への影響も深刻化している。

 訪日旅行の予約キャンセルや団体旅行の中止が相次ぎ、日韓間の人的交流には急ブレーキがかかる。9月28~29日には毎年恒例の「日韓交流まつり」が東京・日比谷公園で開催されたものの、韓国で開催予定だった交流イベント等は相次いで中止。影響は自治体同士の友好交流行事やイベントだけでなく青少年交流やスポーツ交流、ホームステイにまで及んでいる。

 日本政府観光局(JNTO)によると、日本を訪れた韓国人旅行者数は7月は7.6%減の56万1700人、8月は48.0%減の30万8700人とほぼ半減し、個人旅行の減少も目立つという。団体旅行客だけでなく、全体の8割以上を占め日韓関係の変化にも比較的強いとされてきた個人旅行客にも影響が及んでいる。

 韓国を訪れる日本人旅行者数についても8月の数値に影響が表れた。韓国観光公社(KTO)によると、8月の訪韓日本人旅行者数は4.8%増の32万9652人と前年を上回ったものの、昨年春以降、訪韓日本人旅行者数は好調に推移しており、今年も20~30%台の伸びを続けてきただけに異常値といえる。

 訪日外国人旅行者全体の約4分の1を占める韓国人旅行者の激減は、このところ順調に推移してきたインバウンド市場に水を差すことは間違いなく、日本人の韓国旅行の伸び悩みが続けば海外旅行者2000万人目標達成にも黄信号が灯りかねない。

 日韓の人的交流の変調は航空業界にも打撃を与える。OAGによると、7月中旬から9月初旬にかけて週230便以上の運航が停止し、日韓間の航空座席供給の約20%に相当する4万7000席以上(片道)が減少。特に訪日韓国人需要に支えられてきたLCCは運航停止や減便で供給座席数を25%減らしている。需要減と航空座席供給減の負のスパイラルがこれ以上深刻化すれば、座席供給力の回復の難度は増す一方で、影響が長期化する恐れもある。

 こうした流れに歯止めをかけようと、日韓両国のツーリズム関係者が動き始めた。8月30日に韓国・仁川広域市で「第9回日中韓観光大臣会合」が開催され、共同宣言がまとめられた。日韓関係についても、観光庁の田端浩長官は9月18日の会見で、「石井大臣(会合時点)と韓国の朴長官の間で、人的交流は両国の相互理解の基盤であり、しっかり観光交流を進めていくことで認識が一致している」と報告。8月30日には仁川で、JATA(日本旅行業協会)、韓国旅行業協会(KATA)、日本政府観光局(JNTO)の幹部など、日本側30人、韓国側15人が参加して局面打開について話し合われた。

 とはいえ、現状では韓国で直接的な訪日プロモーションを実施するのは困難だ。JNTOは韓国在住ブロガーや旅行インフルエンサーを起用したSNS発信を行ってきたが、炎上を恐れるブロガーやインフルエンサーの要望で発信を一時中断。映画館での広報宣伝活動も映画館側の要望で取りやめている。もちろんメディアを使った大々的な宣伝活動ができる状況ではない。

 そこでJNTOは「まずは日本が韓国に抱いている思いを伝える。特に日本の若者たちは政治問題を気にせず韓国の文化やコスメなどに高い関心を持ち続けていることをソウル事務所のSNS等で韓国側に伝え、日本に親しみを感じてもらう。直接的なアピールができない時期だけにできることをしたい」(海外プロモーション部東アジアグループ・山本研二次長)という。

 このほか、韓国観光公社(KTO)が韓国在住日本人を「韓旅サポーターズ」に任命して訪韓プロモーションを展開している取り組みを参考に、日本在住韓国人を「日本旅行サポーターズ」として起用し韓国市場に呼びかけることも検討する。

【続きは週刊トラベルジャーナル19年10月14日号で】