巨大デジタルインフラ、グーグルトラベルの動向
2019.07.08 08:00
6月のG20財務相・中央銀行総裁会議で議題となったのがデジタル課税である。GAFAと略されるグーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルに代表される世界中のインフラとなりつつある巨大IT企業の税金逃れをいかに防ぐかがテーマであった。われわれにとっては、税金の問題より、すべての人間が多かれ少なかれ頼らざるを得なくなっている巨大デジタルインフラがツーリズムにどのような影響を今後与えるかが重大であろう。一例がグーグルだ。筆者が定期的にアクセスしている米国のサイトでは最近2カ月で10回もグーグルの動きについての分析と報道がなされている。
グーグルは5月に旅行事業に本格的に乗り出すと発表した。それ以前もグーグルフライトやグーグルホテルなどOTAに近いサービスは存在したが旅行関連機能を統合したグーグルトラベルの誕生である。このサイトでは移動手段や宿泊を手配・管理できるだけでなく、Gmailやカレンダー機能、グーグルマップとも連動させることが可能である。当然旅行のプランニングもここで済ませられるし、他のグーグルアプリと同様に履歴データを基に旅行の提案までなされる。グーグルマップの近隣検索機能を使えば、食事、アクティビティーなど多種多様な情報を簡単に手に入れられる。
グーグルの最大の商品は検索機能である。世界中のほとんどの場所で宿泊施設を探し出し、自分に適しているかどうかの情報を得られる。検索結果は通常最初に何社かの広告主の情報が表示され、続いて本当の検索結果で上位に来た施設などが続く。ところが、広告主に続いてグーグルトラベルのデータが検索結果のトップに表示されることが増えていると報じられた。一見ホテル直のように見えてもそこをクリックするとグーグルトラベルに転移させられることもあるという。
旅行分野が支配されるか
公平で正確な検索機能がグーグルの絶対的な強みだが、こうしたことが事実だとすると信頼性が揺らぎかねない。特にスマートフォンが主流の時代には矮小な画面しかないため、検索結果上位のごく一部と優先的に表示される広告主以外はなかなかアクセスされない。このため、エクスペディアは60億ドル(6000億円)近くの販売促進費のかなりの部分をグーグルに支払っているとされる。そのうえ検索部分でグーグルトラベルが優遇されるようなことになれば、広告主としては文句の1つも言いたくなるが、他に選択肢がないなかで広告を出さざるを得ないというのが実情であろう。
もちろん、そう簡単にグーグルに旅行分野が支配されることはないかもしれない。例えばエクスペディアは毎日23億回もの需要と供給のマッチングを行い、毎月6000万件の電話相談に対応、さらに6000人の社員が常にホテルと密接に連携を取っている。グーグルのアプリがいかに優れていてもこうした需要と供給の両面においてはるかに先行しているOTAが簡単にグーグルに圧倒はされないという見方である。
いずれにせよG20の議論や米国でのGAFAに対する公正取引面の調査結果により、検索の公平性が保証され、巨額の広告費をグーグルに支払わざるを得ない現状が変えられるのであれば大歓迎というOTAを中心とした旅行業関係者は多そうだ。
グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。
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