『世界のへんな肉』 旅先で喰らう味と文化

2019.05.20 18:05

白石あづさ著/新潮社刊/1200円+税

 宿屋を始めてから気がついたことのひとつがこれ。
 「世界にはこんなに肉好きが多い」

 京都に来たなら懐石料理でしょう、というのはこちらの思い込み。
 「ヤキニクのいい店を予約して」
 「本場のコウベビーフかオウミギュウ、どこで食べられる?」
 そんなリクエストをしょっちゅう受ける。日本の肉は美味い、という定評は確かに聞くが、意外だった。

 美味い肉を食べたい。こいつの肉は美味いのか?そもそも食べられるのか?タンパク源の確保という生存上の理由もあり、人類の肉食欲は世界各地で発動されている。

 本書は、世界100以上の国や地域を旅した著者が、各地で出会った動物たちとその「味」をつづった紀行エッセイ集だ。エルサルバドルではイグアナを、リトアニアではビーバーを、ケニアではキリンを、エジプトではラクダ、インドでは水牛……。どれもご当地感あふれる動物たちで、世界の人々は、それぞれ身近な生き物の肉を喰らって生きているのだなあ、なんて感心する。

 面白いなあ、と思ったのは、筆者が特にウマそうにもマズそうにも描かないこと。この手の紀行エッセイだと、食べる場面に行数を割いて、その味を伝えるのが常道だろう。だが筆者がのんびりと明るい筆致で描くのは、動物が生きる国とそこに暮らす人々の姿だ。イランの女子大生ファラと羊の脳みそサンドを食べながら恋の話に花を咲かせたり、牛食がタブーなはずのインドでビーフ(ただし水牛)カレーをいただいたり。「肉食」という切り口から、社会のあり方や人の生き方がほんのり見えてくる気がする。

 気張らない旅のスタイル、のほほんとした雰囲気のイラストもかわいらしい、楽しく読める紀行書だ。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。

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