教育旅行先としてのニューカレドニア

2020.02.17 00:00

白砂のビーチが続くアメデ島。マリンアクティビティーを各種体験できる

ビーチリゾートのイメージが強いニューカレドニアだが、希少な自然環境、環境保全への取り組み、フランスとメラネシアとの異文化交流、マリンアクティビティなど教育素材も多い。教育旅行先としての同島の魅力とその可能性を視察した。

 ニューカレドニアは南太平洋上に位置するフランスの海外領土である。首都ヌメアのあるグランドテール島を中心に小さな島々が点在し、総面積は四国とほぼ同じ大きさ。日本との時差はわずか2時間。日本からはエアカランが直行便を成田から週5便、関西から週2便を通年運航し、約8時間30分でヌメアを結ぶ。19年夏には新型機材A330-900neoを導入。今夏はオリンピック開催で変則的ではあるが、日本便を計7便増便するなどアクセスも良い。19年12月には日本航空とのコードシェアを開始したことで、地方からのアクセス向上も期待される。

 教育旅行にとって「安心・安全」は重要な基本要素だ。衛生面ではフランス本国と同様の管理がなされ不安はない。外務省の安全対策基礎データをみても、低い犯罪発生率、テロ組織の活動も確認されておらず治安面も良好といえる。実際、ヌメア中心部のココティエ広場辺り、モーゼル湾沿いで開かれる朝市(マルシェ)を歩いても危険や不安を感じることはないし、通りで人と目が合えば笑顔を向けられた。レストランや観光施設では「こんにちは」と声をかけられるなど、現地の人々のまなざしは優しく、親日国であることを実感した。また、街中の案内板などには公用語であるフランス語、英語とともに日本語を目にする機会も少なくない。

 親日国である所以は、120年以上も前に始まった日本とニューカレドニアの交流にある。世界有数のニッケル産出量を誇るニューカレドニアには、明治・大正期に約5500人もの日本人がニッケル採掘のため海を渡った。彼らは契約期間が過ぎれば帰国する“契約移民”だったが、島に残った日本人も多く、不毛ともいえる土地で農業を始めその礎を築いたほか、漁業や商業などにも進出。その勤勉さは地元の人々の信頼を得たという。

効果の高い体験プログラム

 教育旅行先としてニューカレドニアを俯瞰すれば、島々の豊かな自然とともにフランス領の強みは大きい。ニューカレドニア観光局によると、フランス本国からの移住者も多く、ショコラトリーやブーランジェリー、フランス各地の郷土料理が楽しめるレストランが営業しクオリティーも高い。公用語であるフランス語の発音は本国とほとんど変わらないという。

 こうしたフランス文化と安心感のある受け入れ環境は、大阪の昇陽高校パティシエコースがニューカレドニアを修学旅行先に決めた要素の1つ。「14年まではフランスへの修旅を実施していたが、テロによる治安面での不安と安全面を考慮し、直近の4年間は目的地を沖縄に変更していた」(棟近陽子パティシエコース・コース長)という。

昇陽高校パティシエコースの生徒たち(ヌバタで)写真提供/昇陽高校

 19年11月、3泊5日のスケジュールでヌバタに宿泊し、2日間に渡ってチーム対抗のコンクール形式でのパティシエ実習を行った。ホテルのシェフパティシエからアドバイスを受けつつ、生徒らがマカロンや小さなシュークリームを焼き、作り上げたピエスモンテ(立体的に積み上げた菓子)をパティシエらが審査した。

パティシエのアドバイスを受けつつマカロンを作る

 パティシエ実習以外にも、ヌメアからボートで約20分のメトル島での各種マリンアクティビティを体験。メラネシア系先住民カナックの伝統文化を伝えるチバウ文化センターを訪れ、カナックの“お母さん”と慕う地元スタッフに作り方を教えてもらいながら伝統料理ブーニャづくりにも挑戦し、異文化体験を楽しんだ。パティシエコースの生徒は高校でフランス語を学んでおり、実習などの教育プログラムを通して、また市内散策中のショッピング時などで、自主的にフランス語を使ったコミュニケーションができたことはプラスの効果と捉えている。同校では「ニューカレドニアへの修学旅行は今年も実施する」(吉邨仁志教務部長)考えだ。

自然とエコロジー学習

 ニューカレドニアでは生物多様性や環境保全といった自然やエコロジー学習は主要な教育素材といえるだろう。世界自然遺産に登録される、島々を取り囲むラグーン(礁湖)は世界最大規模を誇り、魚類から甲殻類、軟体動物、海綿類、珊瑚まで生息する海洋生物は約1万5000種に上る。グランドテール島内陸部には豊かな森林、山岳地帯が広がり、3000種以上の固有植物のほか、23種の固有鳥類が生息。動植物の固有種比率は世界3位。生物の多様性と生態系が保全されている。

 リビエール・ブルー州立公園(本島南部)などの自然保護区や、希少な固有鳥類や植物を集めたミシェル・コルバソン動植物森林公園(ヌメア)を専門ガイドと巡るツアーを活用したり、周辺海域を再現し、固有種を含む希少な海洋生物を展示するラグーン水族館、博物館を訪れたりすることで、学びを深めることになる。さらにヌメアからほど近く、船でアクセスするアメデ島、メトル島などでのマリンアクティビティ体験もチームビルディングに一役買うだろう。

 美しい海に囲まれたニューカレドニアは環境問題にも敏感。店舗でのビニール袋配布や、プラスチック製ストローや綿棒の使用がいずれも禁止されるなど、海洋汚染や生態系に影響を及ぼすプラスチックごみ削減に取り組んでいる。空港や街中にはリサイクルのための分別ゴミが設置されており、環境保全への意識は高い。

クレパックの校舎は歴史的建造物を利用

 こうした教育素材を利用しつつ、アクティビティ体験や交流を重視したプログラムを提供しているのが、ニューカレドニア政府が運営する語学学校CREIPAC(クレパック)である。オーストラリアやニュージーランドの中高校生らを中心に年間1000~1200人のフランス語の語学研修生を受け入れている。教室内でのフランス語の授業だけでなく、先住民カナックと一緒に植物の葉を編むクラフト体験やブーニャ作り、チョコレート専門店でのチョコづくり体験、講師と一緒に訪れるチバウ文化センターや水族館、アメデ島でマリンアクティビティツアーなどを通して、フランス語が話せなくても楽しみながらニューカレドニア独特の文化やフランス語を学べるプログラムを提供している。

 受け入れる語学研修生の多くはホームステイを希望しているそうで、クレパックに登録するホームステイ受け入れ家庭は約100軒にのぼる。学校交流についてもスクールカレンダー(7週間ごとに2週間の休暇)を見ながら交流プログラムをアレンジするほか、クレパックの近くにあるニューカレドニア大学や料理学校と協力しつつ、「大学生との交流やクッキングクラスのアレンジなども可能で、細かく打ち合わせをしつつリクエストベースでプログラムを組んでいる」(ヴァレリー・ムニエ・ディレクター)。 

 ニューカレドニアは、イメージするよりも日本から近く、アクセスも良い。教育効果が望める体験プログラムや素材も揃っており、教育旅行先としてのポテンシャルは大きい。

取材・文/梶垣由利子