済州島の大自然を歩く、オルレ・ウォーキングフェスを体験
2019.02.11 08:00
この10年で韓国旅行を代表するコンテンツに成長したウォーキングコース「済州オルレ」。年に1度開催される「2018済州オルレウォーキングフェスティバル」に参加し、その魅力と可能性を探った。
韓国・済州島が好調だ。済州観光公社によれば、18年11月までに済州島を訪れた日本人旅行者は8万991人。年間18万人が訪れた10年には及ばないものの、ここ2年でほぼ倍増した。
平昌五輪の開催や南北融和ムードに加え、17年にLCCのティーウェイ航空(TW)が関西・成田から直行便を就航させたことが追い風となっている。近年、済州島には若い人向けのカフェやおしゃれなペンションなども増えており、かつての「男性客がゴルフを楽しむ島」というイメージは大きく変わった。
その済州島で、11月1日から3日までの3日間、「2018済州オルレウォーキングフェスティバル」が開催された。「済州オルレ」とは、済州島を1周する全26コース425kmのウォーキングコースのこと。海岸や山、あるいは離島などさまざまなルートが揃い、07年に最初のコースがオープンして以来、済州島を代表する観光素材に成長している。日本でも、ハイカーを中心に認知度が高まっており、九州や宮城県には済州オルレと提携した「九州オルレ」「宮城オルレ」が人気だ。
済州オルレウォーキングフェスティバルは、10年以来毎年10~11月頃に行われるイベントだ。期間中は開催地に指定されたコースを1日1コースずつ歩き、沿道ではさまざまな公演や体験プログラムが開催される。
済州オルレを考案したのは、現在、社団法人済州オルレの理事を務める徐明淑(ソ・ミョンスク)氏だ。長年ソウルで雑誌記者を務めていた徐氏は、50歳の時に訪れたスペインのキリスト教巡礼地サンティアゴに感銘を受けた。そして、サンティアゴのように人々の深い思い出になる「道」を、故郷の済州島に作ろうと決心したという。
済州島に帰った徐氏は、社団法人済州オルレを設立し、家族とともに済州ならではの景色と文化を体験できる道を探した。07年9月8日、島東部を歩く「1コース:始興~グァンチギ」間約15kmが初の「オルレ道」としてオープン。広報活動には徐氏の記者時代の人脈が生かされ、地域住民のボランティアである「オルレクン(オルレ守)」をはじめ、多くの人がオルレ事業に賛同した。そして1コース開設から5年後の12年11月、全26コース425kmの整備が完成した。
貴重な原生林を安全に
10月31日、ウォーキングフェスティバルの開催に先立ち、11コース「モスルポ~武陵(ムルン)オルレ」を視察した。済州島南西部のコッチャワルと呼ばれる原生林を通過する17.3kmのオルレ道だ。
コッチャワルとは、溶岩が作った岩盤の上に木やつるなどの植物が自生した原生林のこと。溶岩の上に腐葉土が積もったために通気性と保湿力に優れ、熱帯北方限界植物と寒帯南方限界植物が共存する世界的にも珍しい生態系を維持している。オルレ道は踏み跡があるだけの小さな小径で、自然のままほとんど手が加えられていない。分岐など要所には小さな案内図や済州オルレのシンボルである「カンセ(ポニー)」のオブジェがあり、進むべき方角を示している。道には至るところにリボンが付けられ、顔を上げれば必ずコースがわかる。
うっそうとした森を1時間あまり歩き、集落に出た。11コースの終点は、村の農産物を会員に宅配する武陵ファームの直売場だ。建物の横にはスタンプが置かれ、空港などで購入できる「オルレパスポート」にスタンプを押して、コース踏破を記録していく。
武陵ファームは、地域の農産物を毎月全国の会員に宅配するシステムで、済州オルレが地域と企業を結びつける「1社1村縁組み活動」で生まれた事業だ。
こうした取り組みは各地で行われている。東海岸の3-Bコースの海岸沿いにある新山里マウルカフェは、自治体の自立集落育成事業として建てられた体験施設だったが、運営がうまくいっていなかった。そこで済州オルレが特産品である緑茶を使ったアイスクリームとチョコレートのカフェを提案。住民側もカフェの前を通る新しいオルレコースを提案し、15年に3コースをアレンジした3-Bコースとマウルカフェがオープンした。正面の海岸にイルカが現れることも話題になり、今では内外から旅人が訪れる村のシンボルとなっている。カウンターのガラスには手作りのフォトフレームが描かれ、誰でもインスタ映えする写真が撮れるのも楽しい。
日韓交流の場としても注目
11月1日は済州オルレウォーキングフェスティバルの開催初日。この日の開催コースは5コースで、南部の港・南元浦(ナモンポ)から韓国で最も美しい遊歩道といわれるクンオン散策路を通って、汽水湖である牛沼端まで13.4kmを歩く。スタート地点の南元浦の広場では朝9時から開会式が行われ、大勢の旅人が集まった。
日本人の姿も多い。毎年九州オルレと宮城オルレの関係者や日本人のオルレファンが参加しており、ウォーキングフェスティバルは日韓交流の場という一面も持っている。フェスティバルの参加費は2万ウォン。参加者は会場や沿道のテントでお弁当やさまざまなノベルティグッズをもらえる。環境保護のため容器はすべて紙で、プラスチックは一切使わない。
会場では開会式に続いてさまざまなイベントが行われ、参加者は思い思いのタイミングで歩き出す。スタート地点でボランティアのスタッフたちとハイタッチを交わし海沿いのオルレ道へ。1kmほど普通の海岸道路を歩くと、クンオン散策路に入る。高さ10m以上の奇岩怪石の上を通る散策路で、はるかに見下ろす海の青さに驚く。火山島である済州島の海は溶岩が多く、透明度が高い。やがて散策路は海岸の岩場に出る。ゴツゴツとした溶岩の岩場だが、足場は安定して歩きやすい。
沿道にはあちこちに露店が出ており、名物のみかんを無料でふるまうテントもあれば、地域の人が手作りのクッキーを売る屋台などもある。中でも人気を集めていたのは、長崎県島原市の流しそうめんだ。九州オルレのパンフレットも配布しており、多くの韓国人参加者が足を止めていた。
済州オルレウォーキングフェスティバルは翌2日は6コース、最終日の3日は7コースで開催され、3日間で約1万人が参加して閉幕した。
大自然を体験できる多彩なコースが揃い、難易度も高くない済州オルレは、低山ハイクの人気が高い日本人に最適なプログラムだ。九州・宮城オルレとの交流などを通じて、関係者の日本人旅行者に対する理解も進んでいる。済州島には近年「済州神話ワールド」のような総合リゾートの整備も進んでおり、リゾートに滞在しながら、1日だけウォーキングを楽しむことも可能。済州オルレは、若い世代から高齢者まで幅広く対応できる魅力的な素材になりつつあるといえそうだ。
取材・文/栗原景
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