訪日キーパーソンが語る「チャンスはなにか?」

2023.12.04 00:00

インバウンドの再開は日本経済再浮上のきっかけとなる。海外から多くの来訪者を迎え入れることは世界における日本の存在感を高める好機にもなる。このチャンスをどう生かすかをテーマに「インバウンドサミット2023」(主催MATCHA)が9月27日に開催された。同サミットから基調講演セッションを採録する。

モデレーター
青木優氏 MATCHA代表取締役
パネリスト
小橋賢児氏 2025年大阪・関西万博催事企画プロデューサー
山北栄二郎氏 JTB代表取締役社長
山田早輝子氏 Food Loss Bank代表取締役
山田桂一郎氏 JTIC.SWISS代表

青木 皆さんはチャンスとはどのようなものだと考えていますか。

小橋 俳優をしていた27歳の頃、芸能界に違和感を感じ旅に出ました。そこで世界には多様な生き方や価値観があることを学び、自分も思うがままに生きようと決めて帰国しました。しかし帰国後はうまくいかないことも多く、貯金は底をつき病気まで患いました。心身の健康を取り戻すため、自分自身のバースデイパーティーをプロデュースしたのをきっかけに、イベントプロデュースの世界に関わることになりました。その後、企業イベントのプロデューサーや音楽フェスのクリエイティブディレクターを経て東京パラリンピックの閉会式の総合演出を手掛けました。

 振り返ると、お金も仕事も健康も失い、健康を取り戻そうともがいた結果、イベントプロデュースの仕事と出会えたようなものです。ですからチャンスとは、一見ネガティブに見える環境でも未来をどう創るかを考え、ひとつひとつ向き合っていくことでもたらされるものだと思っています。

山北 コロナ禍というピンチの中でいろいろと考えさせられた3年間でしたが、インバウンドの再開は日本にとって経済的な転機となるものだし、日本自体が変わっていく絶好の機会になります。いまがそのチャンスです。

山田早 かつてヴァージン・グループの創業者リチャード・ブランソン氏と運について話し合ったことがあります。彼は「運は皆に平等に回ってくる。でも、どれが自分にとっての幸運でチャンスなのか、見極めるための準備をしておかなければならない」と話していました。私も同感です。ロサンゼルスで映画制作の会社を運営していますが、俳優は役が回ってきてから英語を鍛えても遅い。その前から英語の勉強をしておかないと、目の前の役をつかむチャンスを逃します。

山田桂 あらゆる事象がチャンスになります。ただし、その中からどれを選択して生かし、どの部分に注力するか、どのような成果を求めるか。そして、何のために活動するのか等の目的を明確にしておくことが必要です。

小橋 インバウンドのチャンスとして見ているのは25年の大阪・関西万博です。このイベントは大阪や関西だけのチャンスではありません。万博へやってきた訪日外国人は大阪や関西だけ見て帰るわけではなく、日本各地を訪れます。世界が日本へやってくるという意味では、彼らを迎え入れる準備を通じて日本の魅力をこれまで以上にアップデートするチャンスでもあります。

青木 コロナ明けから共創という言葉をよく聞くようになりました。課題に対して、自分たちだけのアセットではなく自分の強みと他者の強みを組み合わせて解決を図ろうという考え方です。JTBが訪日インバウンド共創部という部署を立ち上げたのはなぜでしょう。

インバウンドにおける共創の重要性

山北 以前はインバウンド推進室がありましたが、インバウンドをより大きなものにしていくにはあらゆる人が加わってインバウンドを共創していく必要があると考え、新たに訪日インバウンド共創部を立ち上げました。東京で運行するオープントップバスのツアー企画を大学生とコラボして作ったり、ホテルにおけるゲストとのコミュニケーション支援や観光地の混雑緩和を支援するデジタルシステムでの協業などに取り組んでいます。

青木 先ほど山田桂一郎さんが目的設定の重要性に触れました。目的設定やビジョンづくりはどのように行われているのでしょうか。

山田桂 自治体の観光戦略や計画策定に関わることが多いですが、ビジョンや数値もふわっとしたものや根拠がない数値目標がほとんど。住民の多くが納得できるようにしようとするとふわっとしたものにならざるを得ません。しかし地域の適正人口がどれくらいで、その人数を養っていくには地域の売り上げやGDPをどれだけ確保・向上させなくてはならないか。地域経営の中で観光を戦略的にどう位置付け、その中のインバウンドをどうすべきか、KGIから因数分解してKPIを押さえておくことが欠かせないわけです。この場合のインバウンドとは必ずしも海外からの来訪客という意味ではなく、地域の外からやってくる来訪者すべてを指します。

【続きは週刊トラベルジャーナル23年12月4日号で】

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