ツーリズムみはまの橋川史宏氏が語る熊野・伊勢の地域づくりと人材育成

2023.10.09 00:00

和歌山大学が8月に開催した専門職大学院設置記念シンポジウムに、同大学院観光学研究科の客員教授で、ツーリズムみはま理事の橋川史宏氏が登壇した。伊勢のおかげ横丁の建設から経営、熊野のエコツーリズムを推進した経験から地域づくりと人材育成について語った。

 観光分野での地域づくりをずっとやってきて、優れた人材が本当に必要だと感じてきました。人材育成を考える時に、どんな地域をつくるのかを抜きには語れません。地域づくりと人材育成は方向性を一にしているということです。地域づくりというと、一般的には来客数や客単価、観光施設の誘致・改善、雇用や宿泊数の増加、インバウンド対応やアクセス改善、情報発信などの経済的な指標や考え方が大事にされることが多いですが、地域の一側面でしかない。特に経済的側面だけで地域づくりは語れません。

 観光客に深く感動してもらうために地域は何ができるのか。観光を人にとってもっと大事な産業と捉えて深めていくことはできないか。さらに住民もここに住んでいることをうれしく思い、人のつながりができてくるといい。もちろん経済的効果もあって、事業は継続的で地域が存続できる。限界集落が立ち直る。結果として自然や歴史や文化が評価され生かされ守られる。こんな観光施策ができないかと考えています。

 観光による地域づくりのための1つの方法を、今日は共有して話を進めたい。主体は地域に住む人。そして地域資源を尊重すること。従来は活用できる地域資源が宝物といわれましたが、活用できなくても地域に大事なものはたくさんあります。きれいな空気に触れた時、いいところに来たな、いいところに住んでいるなという気持ちになる。これも地域の大事な要素です。歴史あるところにいると心が落ち着くというのも地域の資源。活用できるできないにかかわらず、地域にこれまでよりももっと正面から向き合うべきです。

 新しい価値と活用法を創造すること。地域資源を広く見渡して、ニーズを掘り下げると新しい活用方法が見えてきます。アウトプットは高品質、高い達成度であるべきで、できれば全国レベル、世界水準を目指す。広告宣伝は情報量やチャンネルの広がりだけでなく、価値観の共有を強く考える。価値観が共有できると情報は自然に拡散します。そういう情報が何かをつかむことが大事です。簡単にいうとオリジナリティー、クリエイティビティー、ハイクオリティーの3つです。

 そんな地域づくりのための担い手を考えると、必要な人材は構想力、実践力、共感力を持つ人です。構想力とは幅広く地域資源を学び、その中で本質的なものをつかんで、理念やビジョンや構想にまとめ上げていく力です。地域の未来を設計する覚悟を持った人がいると、地域づくりは進みます。

 実践力のある人とは事業を作り上げて結果を出す人。そういう人はトレーニングで育ちますが、観光業で地域づくりのトレーニングをする場所はあまりありません。共感力のある人は人と価値観を共有できる人。お店の現場にいる人、取引先と話をする人、観光客をお迎えする人など、それぞれの場所に共感力のある人がいることが観光地を魅力的にするために必要です。

戦後の衰退からの回復

 伊勢には伊勢大神楽という伝統芸能があります。神楽師たちが祈祷をして信仰を広げるだけでなく、獅子舞や芸を披露し、人の気持ちを集めて、人気を博してきました。おかげ横丁では毎年正月に伊勢大神楽を招いて披露しています。

 これは伊勢の町づくりの一例ですが、おかげ横丁の個性や特徴を語る上では町の変遷を述べなければなりません。江戸時代に安藤広重が伊勢参宮でにぎわう様子を錦絵に残しましたが、おかげ参りという現象がありました。また、参拝に来た人をお迎えし、館で祈祷し、食事や宿を提供する御師(おんし)という神官の存在がありました。

【続きは週刊トラベルジャーナル23年10月9日号で】

関連キーワード

カテゴリ#セミナー&シンポジウム#新着記事