高千穂ムラたびの飯干淳志代表が語る農村ツーリズムによる地域再生

2023.09.11 00:00

和歌山大学に日本初の観光地域分野の専門職大学院設置を記念するシンポジウムが8月に開催された。同大学院観光学研究科の客員教授で、高千穂ムラたび代表取締役を務める飯干淳志氏が講演。高千穂の秋元集落と北イタリアの農村ツーリズムの事例を語った。

 20年以上前にデンマークを家族旅行しました。この時、私の父は2日に1回の人工透析が必要でしたが、これを実現してくれたのがデンマークの田舎にあるリゾートの人工透析施設でした。アナライザーという透析機器があって看護師さんが常駐していました。日本では医者のライセンスがないとできない仕事です。

 看護師さんに、なぜこんな田舎で人工透析をやるのかと聞いたら、誰もが自由に旅行できるために必要でしょうと言われました。福祉の先進国家の人たちは、みんなが平等に旅行するということについて当たり前のマインドとして持っていることが驚きでした。その上で透析を看護師ができる制度を国が作っている。日本では考えつかない話で、社会的な背景を把握した政策や制度設計の必要性を感じました。

 国土交通省の調べでは、日本を訪れる外国人の6%が旅行中に病気やけがなど健康状態が悪くなっています。私の民宿でも、フランスのご夫婦が夜中3時に熱があるから病院に連れていってほしいと言われたことがありました。旅行中に虫に刺され、ウイルスに感染したかもしれないとパニック状態で、連れていった近くの病院では納得せず、熊本の日赤病院まで送りましたが結果は悪性のものではありませんでした。

 その時に思ったのは、観光の現場では遠隔医療のような医療体制や通訳士などのサポートシステムが充実してきているとはいえ、まだ安心して旅行できるところまではいっていないということです。

秋元集落の取り組み

 私は宮崎県高千穂町の秋元という高地の限界集落で暮らしながら、この村を何とかしようと民宿をやって加工品を作っています。こういうところに旅行者を招き、地域社会の価値を高めたビジネスモデルをつくろうと考えたのです。人と物が行き交う村づくりです。高千穂ムラたびの会社名もそういった意味を込めて「ムラたび」と付けています。

 エコミュージアムという手法を応用し、旅行者に村の魅力が分かりやすいように、村丸ごとが博物館というデザインコンセプトで村づくりに取り組みました。構成要素は自然や伝統文化、日常の暮らし、普段その村にあるもの。それらを、スピリチュアルの空間、リトリートの場、なぜこのような山に住んでいるのか住民のルーツを探るなどエッセンス的なものとしてデザインすることを心がけてきました。

 狙ったのは外国人旅行者です。欧米の知的富裕層、旅行経験が豊富で日本の原風景に興味がある人たちを村に招くことで地域の情報が世界中に広まっていく。そこにいろいろな作り込みをすることを狙いました。やってみると田舎の価値観にファンがたくさんいて、秋元神社は年間3万人が訪れる有名なスピリチュアルスポットとなり、地域資源が持つ価値にあらためて気付かされました。こんなところに外国人がやってきて、競争力の高い商品も作れていますので、私たちのアプローチは今後の農村ツーリズム、地域づくり、まちづくりビジネスの参考になると思います。

 09年に役所を早期退職後、1カ月かけてイタリアを北から南までアグリツーリズモを泊まり歩く旅をしました。そこでアグリツーリズモに関する法律や制度、心地よく滞在できる環境、経営ビジョンなどを各地で取材しました。その経験を踏まえて、130年の古民家と牛小屋をリノベーションして民宿を開業しました。旅行者は発見する喜びを求めてやってくるため、ありきたりでない価値観の見立てが大事です。神秘的な環境、自然の捉え方、伝統的な建築などを旅行目的に値するものにデザインしました。

【続きは週刊トラベルジャーナル23年9月11日号で】

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