DMO KYOTOの堀江卓矢専門官が語る観光データの読み解き方と活用

2023.05.15 00:00

東京都は3月1日にデータ利活用のファーストステップセミナーを開催した。基調講演には京都市観光協会(DMO KYOTO)DMO企画・マーケティング専門官の堀江卓矢氏が登壇。DMO KYOTOの取り組みを通して、観光データの読み解き方や具体的な活用手法などが紹介された。

 京都市観光協会は京都市域を担当するDMOで、観光客からの収益事業や行政の補助金を財源に情報発信や観光案内所運営、事業者の経営支援、統計調査など投資分野の事業を展開しています。マーケティングチームは外部専門人材含め8人。課題解決系事業などマーケティングの本質である市場調査だけにとどまらない事業も担当し、年間事業規模は1億円を超えます。ただしデータの利活用に関わる事業はなるべくコストをかけず、人件費含め2000万円程度の予算感で運営しています。

 今回、データ活用にどんなメリットがあってどんな成果が得られるのか、6つのポイントにまとめてお伝えします。1つ目はDMOが得たデータを分かりやすく整理して発信することで地域の事業者の経営判断の精度が向上するということ。約10年前までは観光に関するデータといえば行政が年1回発表する統計だけでした。しかも当該年の集計結果が発表されるのは翌年夏頃で、事業者が経営判断材料とするには遅すぎます。こうした状況を改善するため、市内の宿泊施設からの協力の下、速報性を重視した独自の宿泊統計を開発しました。市内全体の動向を正確に把握することより、一部施設だけでも毎月の客室稼働率や価格データを翌月上旬に提供してもらい月末までに分析して発表することで、いまでは毎月必ず報道される統計として認知してもらえるまでになりました。客室稼働率やコロナの影響などが憶測でなくデータに基づき報道されることで、市民から観光産業に対する理解の醸成にもつながっています。

 これらのデータは統計に参画いただいている宿泊施設にフィードバックするのはもちろん、コンサルティング会社や研究機関に活用いただいたり、不動産会社や投資会社に利用いただくことで新たな投資案件につながったりしています。

 ちなみに最近の市内主要ホテルの客室稼働率推移をみると、23年1月の客室稼働率は55.2%で、90%前後で推移していたコロナ禍前の水準を大きく下回り、外国人が占める割合もまだまだ少ない状況です。客室単価の推移をみても円安の影響もあり米ドル建てで比較するとコロナ禍前をまだ下回っています。外国人観光客の目線に立てば、まだまだ価格を上げる余地があるという情報を提供することで事業者の利益向上が期待できます。

 最近は将来予測にも力を入れています。一部施設から提供いただく予約状況データを基に数カ月先の客室稼働率を予測したところ、3月1日現在で4月の平均稼働率は95%に達する見込みです。特に最近は人手不足が深刻なため、こういった見通しを業界に周知することで限られた人材を効率的に配置するうえでの参考にもしていただけます。

投資判断から予算要求、分散化に活用

 2つ目が投資、起業、参入の活性化です。京都市内の宿泊施設の客室数は15年度末時点で約3万室でしたが、わずか数年で2倍近くに急増しました。今後も国際的に有名なブランドを冠するホテルの建設が計画され、一定の供給が維持されることが分かっています。これだけだと京都のホテル業界における新規の投資余地は少ないと思われがちですが、実際にはマーケットごとで状況は異なります。例えば先ほどの宿泊統計を活用し施設の立地ごとの業績を比較すると、高価格帯のホテルが多い郊外ではコロナ禍でも比較的需要の回復が早かったことが分かりました。密を避けて滞在できるイメージを持たれやすかったことも影響したのかもしれません。こうした事実を宿泊施設や投資会社に把握してもらうことで、投資や撤退の判断材料を増やすことができます。

【続きは週刊トラベルジャーナル23年5月8・15日号で】

 

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