観光資源リッチゆえの悩み

2023.04.24 08:00

 久しぶりの長崎出張、余裕を持たせた日程にしたものの、空いた時間にどこへ行くか決めてなかった。とりあえず空港でもらった観光地図を広げる。目に留まったのはいつか行きたいと思っていた人工島。運よく翌日の上陸ツアーが予約できた。

 海底炭鉱を採掘するために岩礁を土台に造られたその島は、最盛期には約5000人が住んでいた。採掘関係の敷地を除けば居住エリアは東京ドーム1個分程度と、ものすごい人口密度だ。閉山とともに無人となってもうすぐ50年。島全体が世界遺産という印象があるが、ただ1つの建築物が構成資産として登録されているに過ぎないことや、あまりにも劣化が激しく修復作業ができないことなど、保存状態は劣悪だ。日本初の鉄筋コンクリート集合住宅(1916年築、7階建て、140戸)、防波堤の役割も兼ねた高層住居、意匠を凝らした映画館、地下デパート、屋上保育園、日本初の海底水道管・電気管など、驚くべき建築物が波や台風にさらされ日に日に朽ちていく。

 気象状況に応じて県が都度上陸許可を出すので、船は満席の客を乗せたまま島の近くで待機。幸い許可が出て間近で見学することができた。実際にそこで生まれ育った人に直接話を聞くこともでき、大変良い勉強になった。

 さて、島の話はこのぐらいにしてエリア全体について考えてみたい。長崎には室町時代(あるいはもっと古代)から昭和にかけての日本の近代化の歴史を語るうえで重要なものがたくさん残る。狭い範囲に観光スポットがてんこ盛りだ。ゆえに多くの観光客はそれぞれをじっくり見て回るより、数をこなすプランを選択するのは歯がゆいところ。

 この島の私設ミュージアムもガイドブックでは「1時間半で見学可能」とあるが、貴重なビデオアーカイブが多数あるので半日はかかる。地域の団体が主催する長崎のまち歩きツアーもバラエティーに富んだコースがあり、主要な観光スポット以外の史実や今昔を知ることができる。しかし2時間はかかるので、1~2コースを選ぶのが精一杯だ。

 稲佐山の展望台では、歴史的背景を分かったうえで市街地や港を見下ろすと、一味も二味も違う感動があり、ついつい長居してしまう。「え~、すごい」「わ~、キレイ」「これ、おいしい~」というようなうわべの観光だけなら、確かに1~2日もあれば十分だろう。しかし、その地域を味わい尽くすなら数日では足りない。

 これだけの観光資源を有しているからには、再来に焦点を当てた施策がもっとあってもよいと思う。長期旅行をしにくい日本人向けには、数年かけて楽しんでもらうというような長期的な取り組みや、それを行いやすくする仕掛けが欲しい。例えば5年間有効な割引パスの発行や、来訪回数に応じた特別見学会招待などはどうだろう。インバウンドに対しては長崎を起点にした中国・四国・九州の周遊を提案したい。

 観光資源が豊富な地域こそ、ツーリズムが奥の深い旅行を提案してくれることを期待している。

黒須靖史●ステージアップ代表取締役。中小企業診断士。好奇心旺盛で旅好きな経営コンサルタント。さまざまな業種業態の経営支援に携わり、現場中心のアプローチに定評がある。

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