東洋大の古屋秀樹教授が語るツーリズムを再構築する観光GX

2023.04.10 00:00

東京観光財団が2月8日に開催した観光活性化フォーラムで、東洋大学国際観光学部の古屋秀樹教授による「観光GXによる持続可能な観光の実現に向けて」と題する基調講演が行われた。経済社会システム変革に向けて動き出すGXについて、観光業に関わる部分に触れながら解説された。

 GX(グリーントランスフォーメーション)とは、化石燃料中心の経済・社会、産業構造を環境負荷の少ないクリーンエネルギー中心に移行させ、社会経済システム全体を変革することです。化石燃料中心の旧来システムのままでは、資源が有限であるとともに地球温暖化の影響によって持続可能性が担保できないためです。すでに欧州諸国は発電量のうち再生可能エネルギーが占める割合が4割近いのに対し、日本は水力を合わせた再エネが約18%とまだ少ない状況です。

 さて、国内観光の現状をみると、現在策定される新たな観光立国推進基本計画では、インバウンドの回復、国内交流の拡大、観光地域づくりを柱に、消費の拡大、地方誘客、さらに持続可能性を組み合わせて進めていくとされます。また、国内の観光需要も回復していますが、その傾向は県ごとに差が出ています。

 宿泊者数をみると大阪府と京都府、沖縄県はコロナ感染拡大から弱含みで、インバウンドの減少をマイクロツーリズムで補えなかったのに対し、高知県、山口県、鳥取県、島根県、東北地方や栃木県など大都市に近接したところは回復基調が強い。このようななかでGXを活用し、持続可能性を強固に推進し、ブランディングすることが消費者をつかむことにつながると考えます。

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)では人間活動によって40年までに世界の平均気温が1.5度上回ると予測します。1.5度上昇すると北極の海氷融解や気温増加に伴う感染症の拡大が危惧され、これが30年に前倒しになるという最新報告もあります。

 その対策として気候変動に関する国際連合枠組条約によるものがあります。1997年に京都での締約国会議(COP3)では先進国の削減目標が規定され、2015年パリのCOP21では途上国も締結国に入り、長期目標平均気温1.5度以内やカーボンニュートラルに言及されました。観光関連では21年のCOP26でグラスゴー宣言(観光における気候変動対策)が締結され、観光でも積極的にコミットしていこうという流れになりました。

 COP21に関連して、日本では30年度に温室効果ガスを13年度比46%減少させることを国際公約にし、50年にゼロにするとうたいます。その実現のため地球温暖化対策推進法(温対法)が施行され、GX推進法案も提出が予定されます。GXは岸田首相が提唱する新しい資本主義の柱の1つで、GX推進法案のうち注視すべきはGX経済移行債で10年間で20兆円規模が発行予定です。

 なぜ、このような巨額の資金が必要かというと、技術革新、インフラ整備、市場テストなど社会が変わるには相応のコストが発生するため。その原資が炭素課金です。賦課金(カーボンプライシング)と排出量取引の2つあり、それぞれ化石燃料の輸入業者と電力会社が負担しますが、最終的には価格転嫁によって消費者が負担することになります。観光産業においても、いまから原材料調達を適正化し、化石燃料削減を考え、より実効性ある取り組みにシフトしなければなりません。

 この持続可能性を考えると、その推進には手間がかかり、データは少なく、合意形成も進まない、なぜやるのかという声も聞かれます。その解としてユーロモニターのレポートが理由を示しています。それによると消費者の志向と密接に関わるブランドの評判向上・維持のためが1つ。そして企業存続のために法律への対応が求められます。興味深いのは持続可能性を頑張る企業は従業員満足度も高い。さらに、投資家を引きつける経済原理、想定外のリスクへの対応が取り組む理由として挙げられています。

【続きは週刊トラベルジャーナル23年4月10日号で】

 

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