農泊と分散型ホテル オスピタリタ・ディフーザの可能性
2022.08.08 00:00
農泊の推進に取り組む市町村でイタリア発祥のオスピタリタ・ディフーザの概念を取り入れて地域振興を図る動きがある。農泊に通ずる発想を持ち、日本の農山漁村の特性にも合致するとあって、注目を集めている。イタリア流の取り組みは日本の農泊をどのように進化させ得るのか。
農泊の推進は、国が重要施策として取り組む地域創生の中核の1つに位置付けられるプロジェクトだ。農山漁村に宿泊し、滞在中に地域資源を活用した食事や体験を楽しむ農山漁村滞在型旅行を「農泊」として推進している。地域内でこれら観光コンテンツを提供し、地域が得られる利益を最大化するのが狙いだ。
17年に閣議決定した観光立国推進基本計画には、滞在型農山漁村の確立・形成が盛り込まれ、農泊を実施できる地域を20年までに500地域創出する目標も掲げられた。まち・ひと・しごと創生総合戦略や成長戦略フォローアップなどにも農泊推進の環境整備が盛り込まれている。農林水産省や観光庁、総務省、文部科学省などが連携し、文字どおり国を挙げたプロジェクト体制が組まれた結果、21年度末時点で農泊推進対策採択地域は全国で計599地域に達し、観光立国推進基本計画の目標を大きく上回る。体験プログラム数は17年度の4652から20年度は1.7倍の7722まで増加。食事メニューも5623から約2.3倍の1万3109まで増えた。
農泊地域における延べ宿泊者数も17年度の約503万人が19年度には約590万人まで増加。ただし、その後はコロナ禍で大幅に減少し、20年は約390万人にとどまった。
農泊は観光・旅行業界にとっても今後大いに期待できる分野である。同じく農山漁村を舞台としてこれまで展開されてきたグリーンツーリズムをはるかに上回る潜在需要が眠っているからだ。
農水省を中心に関係者や有識者が集まり、観光庁や文化庁、環境省がオブザーバー参加する農泊推進研究会(多様な地域資源のさらなる活用に関する農泊推進研究会)の第1回会合では、委員を務める百戦錬磨の上山康博代表取締役社長が「観光業界でまずはこれまでのグリーンツーリズムと農泊との違い、そして農泊の可能性をしっかりと共通認識として持っていただきたい」と呼びかけた。旅行業界では以前から、中・高校生の教育旅行の団体需要が主対象のグリーンツーリズムが普及しているが、現在推進している農泊はグリーンツーリズムとは異なる点が多いことが、その背景にある。
宿泊施設整備に分散型のアイデア
大きく違うと指摘するのは2点。1点目はグリーンツーリズムが国内団体需要を主対象としているのに対し、農泊は団体だけでなく個人旅行も対象で、訪日外国人も想定していることだ。2点目は宿泊形態で、グリーンツーリズムは農家にホームステイするのが基本であるのに対し、農泊はホームステイも含まれるものの、中心は宿泊施設での滞在だ。この場合の宿泊施設とはホテル・旅館だけでなく、既存の宿泊施設がない場所でも地域の遊休資産を利活用した新たな宿泊施設で受け入れることが想定されている。例えば空き家をリノベーションした1棟貸しのコテージや、歴史的建築など文化財を改装した宿泊施設、廃校などの公共財を使った宿泊施設が受け入れ先となる。
つまり農泊を推進するには、ホームステイや既存の宿泊施設だけに頼らず、地域の資源を生かした地域ならではの宿泊施設の整備が重要なポイントになるわけだ。
農泊推進の鍵を握る宿泊施設の整備に関し、注目を集めているのがイタリア発のオスピタリタ・ディフーザだ。日本でもアルベルゴ・ディフーゾは分散型ホテルとして知られるようになってきたが、それを考案したイタリアの観光学者ジャンカルロ・ダッラーラ氏が考え出したアルベルゴ・ディフーゾの派生型宿泊施設の形態だ。
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