言いたいことが言えるこんな世の中は

2021.07.05 08:00

 「それって、あなたの感想ですよね」と通称・論破王。「〇〇は□□ということになるって、おかしくないですか?」とは某社会学者。誰が呼んだか、中堅世代における令和のご意見番。メディアでよく目にするそんな彼らがお歴々を喝破するさまを痛快に感じて、他人を論破したくて仕方のない人たちを「論破ーズ(ロンパーズ)」と呼ぶ人がいるらしい。ただ、やぼったいネーミングも攻撃対象になりやしないか心配だ。命名にあたってのネタ元が極端に古いうえ、いちいち人をひとくくりにしたがる性分と類推するなら、論破の攻撃にあった老害による薄いマウンティングと見ておくのが手堅そうである。

 さて、論破ーズの教祖たちの戦術は、基本的には揚げ足取りである。とはいえ、単なるイヤな奴に終始することなく一定の人気を集める背景には、モヤモヤしていることや不満を言語化して代弁することにあるようだ。振り返れば昨年のいまごろ、ネット配信のニュースコンテンツを視聴していて筆者も身をもって経験した。「観光産業に従事する何百万人もの雇用も守るためにGoToトラベルの継続が必要だ!」と熱弁する人物に対し、「旅行会社はオワコンなんだから、みんな転職すればいいじゃないですか」と教祖の言。その内容を額面通り受け入れるのは困難だ。とはいえ、薄弱な根拠をベースにした強硬な権利主張に違和感を抱いていた筆者にとって、バッサリとぶった切られた姿そのものは何とも痛快に思われた。

 筆者は無為無策のままによる前例踏襲を嫌悪する傾向が強い。しかしながら、前任者や上司へ意見したところで何も変わらないことは百も承知である。意見したことで悪くなるのであろう職場の雰囲気を後始末せねばならないことを面倒に思い、いつも耐え忍んでいたものだ。そして、自らがハンドリングできる立場や役割に就くことを待ってから、自分自身のやり方を実践してきた。そうした行いを省みると、攻撃的な態勢はいかがと思うが「それ、何の意味があるんですか」「そのやり方って不毛ですよね」と自らの主張を忖度なく展開できるのはある意味うらやましいところもある。

 ただし、運の悪いことにそうした社会は昔にはなく現代であり、筆者は論破される側の年代へと足を踏み入れつつある。実際、知人は早々にぶった切られてしまった。チームビルディングやメンタルヘルス対策の観点から1on1ミーティングを実施する企業が増えつつある。広告会社で部長職を担う知人は、その場での部下による物言いに辟易しているというのだ。上司が部下から話を聞くことが目的の1on1だから、まるで攻撃の場を待っていたかのごとく意見をぶつけてくるらしい。

 役職なんて単なる役割の違いなのだから、部下による上司への物言いが活発になること自体は大いに歓迎すべきことだろう。ただ、その姿勢がクレーマーと紛うような破壊的話法では、ことは前には進みづらい。他方、上司によるマウンティングは速攻パワハラ認定されてしまう時代。組織運営職の心労は実に切実だ。

 「テレビ番組につっこむな!」と妻に訴える機会が増える昨今、「それって、あなたの感想ですよね」と筆者も思わず言いたくなってしまうのが、食品メーカーの新商品開発を追った番組だ。ユーザーの声を全く聞くことなく、立派な舌の持ち主とは到底想像できないお偉方が勘と経験だけで採用可否を判断していく。あたかもコントに登場する頑固な陶芸家気取りである。旅行業界も他山の石とすべきだろう。ワーケーション? マイクロツーリズム? その商品ラインナップがイイだなんて、あなたたちの勝手な思い込みですよね。

神田達哉●サービス連合情報総研業務執行理事・事務局長。同志社大学卒業後、旅行会社で法人営業や企画・販売促進業務に従事。企業内労組専従役員を経て現職。日本国際観光学会理事。北海道大学大学院博士後期課程。近著に『ケースで読み解くデジタル変革時代のツーリズム』(共著、ミネルヴァ書房)。

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