ライブ感と女性性
2020.10.05 08:00

東京五輪のレガシーをテーマに「LIVEへの熱量を吸収せよ」と記したのは本誌1月20日号。コト消費を提案価値として市場へ提供するツーリズムとして、LIVEをさまざまなコミュニケーションに投入することで存在価値向上へとつなげよと提案した。間もなく1年。オリパラは延期されたが、新型コロナウイルスの影響でライブ感の重みは急激に増すこととなった。
ウェビナーなる単語が一般化するほど、オンラインセミナーは一気に普及。業界ではトリップドットコムが国内旅行業初の取り組みとして、ライブコマースで7000万円超を売り上げ、エイチ・アイ・エスはオンラインで世界の観光地を巡る体験ツアーで市場を賑わせた。いずれも事業の柱としての成長が期待される取り組みだ。意図した端緒とは全く異なるものだったが、社会的レガシーにより組成された熱量を次の何かへ誘う役割を率先する巧みさが垣間見える。
一方、BtoB領域。感染拡大防止と優れたコスパがオンラインの場で両立すると認識された現状、これまで通りのMICE事業による人流創出は困難となった。学会シーズンが到来したが、筆者の所属する学会はすべてオンラインでの開催が決定している。学会に限らずMICEはオンラインが一般化することで、コロナ禍以前の形態をリアルMICEと称する日も遠くなさそうだ。
さて、先般、そのオンライン学会で研究発表した。操作に慣れたズームでの発表とあって、初挑戦だったもののスムーズに対応でき安堵した。しかし質疑応答の際、他の発表者の場合も含め、フロアとの丁々発止のやり取りは乏しく水を打ったような静けさが場を支配していた。不甲斐ない。厳しい指摘や厄介な質問から逃れられることを歓迎する向きもあるだろう。ただ、ビデオオフでのノーリアクション空間に佇むのは、その場に人が存在しているはずとの感覚を否定されているようで心もとない。学会発表の意義を確認したくなるほど困惑した。
「大人数でのズームのやり取りはどうしても堅苦しくなる」とは研究会男性座長の言葉。なるほど。オフラインでの会議回しには自信がある筆者も、オンラインでホストを務めるたびにそのように実感する。とはいえ、参加者側の1人として臨んだときに何度か見事な進行に出合い、感に堪えないことがあった。思い返すと共通点がある。すべて女性が運営していた。
ライブイベントやコミュニティー運営は、女性のほうが圧倒的に優れている。コメントしてサポートしたり、チャットで盛り上げたり、他の参加者へ声掛けしたり。経験上の雑感だが、こうした気遣いが可能なのは女性にほぼ限られる。臆面もなく述べるが、コミュ障と自身を正当化し、能動的サポートを自ら担う必要性を背負わない男、その数は多くない。薄っぺらいプライドを強く持ち過ぎだ。
新たな日常とされる近い将来においてオンラインコミュニティーを前提としたとき、そんな態勢では対応できない。積極的にSNSでコメントができるのか。サポート側につくことが可能なのか。細やかな気遣いが行えるのか。女性が得意といえる分野で能力発揮できる人こそがビジネスで伸びてくるかもしれない。仮にそうであるなら女性性の実装は不可欠だ。女性活躍だの指導的立場への女性登用だのが空虚なスローガン化していることも、この機に変容することを期待したい。
先に述べた研究発表だが、コメンテーターは女性だった。終盤、研究発表者同士の会話を促すとともに、フロアの出席者をうまく巻き込むように進行のサポートに努めてくれたことで救われた。あらためて深い謝意を表したい。

神田達哉●サービス連合情報総研業務執行理事・事務局長。同志社大学卒業後、旅行会社で法人営業や企画・販売促進業務に従事。企業内労組専従役員を経て、ツーリズム関連産業別労組の役員に選出。18年1月から現職。日本国際観光学会第28期理事。
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