『街道をゆく40 台湾紀行』 稀代のリーダーが育んだ風土を見つめて
2020.08.31 00:00

李登輝さんが亡くなられた。
7月30日、享年97歳。その政治的功績と温かい人柄を惜しむ声は世界に広がっている。私もこのニュースはちょっとショックだった。アジアのリーダーがまたひとり去ったことが、寂しく、心もとなく感じられる。
1980年代にバックパッカーをしていたころ、当時「途上国」と呼ばれていたアジアの国々は個性豊かなリーダーの下、元気いっぱいだった。シンガポールのリー・クワンユー、タイのプミポン国王、マレーシアのマハティール、中国の鄧小平、そして台湾の李登輝。どの国も国情に合わせた大胆な政策に挑み、「先進国」に追いつこうとしていて、日本にはすでになかったその熱気と輝きが若造にはまぶしかった。
そんな思い出とともに本棚から引っ張り出してきたのがこちら。司馬遼太郎『街道をゆく』シリーズの1冊で、李登輝さんとの対話にも多くページが割かれている。訪問したのは93年、李登輝さんが96年に台湾初の直接選挙で選ばれた総統となる少し前だ。
「鉄砲1つ持たない、握り拳も弱い、国民党の中でグループも持たない。それなのに、私がここまで持ってこられたのは、心の中の人民の声だと思うんです」(対談より)。ウチの国のトップに100回書き取りしていただきたいような名台詞ではないか。名インタビュアーでもある著者が引き出す李登輝さんの魅力はもちろん、おなじみの俯瞰的視点で語られる台湾、そして日本の現代史は密度が高く読み応え十分。
コロナ封じ込めで話題となった台湾だが、それを可能にした緊張感がどこから生まれているのか。「親日の国」という安易な言葉で語られがちなこの島の奥深さ、李登輝さんを育んだ風土を今こそあらためて見つめ直したい。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。
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