動き始める世界の観光 渡航制限そろり解除へ

2020.07.06 00:00

外国人観光客の受け入れへ一歩を踏み出した
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新型コロナウイルスが世界に広がり各国でとられていた渡航制限措置が、緩和の方向へと動き始めている。欧州委員会はEU域内の国境開放を促し、経済の屋台骨を支える観光業の復興を目指す。そろり再開する世界の観光について最新動向を紹介する。

 欧州委員会は6月11日、新型コロナウイルスの感染拡大で3月から原則禁止していたシェンゲン協定加盟30カ国内の移動を、6月15日から再開するよう加盟国に提案した。年間7億人が訪れ域内GDPの10%を構成する観光は、欧州にとって極めて重要な産業だ。感染第2波の懸念が常につきまとうものの、規制を解除して経済をできるだけ早く立ち直らせたいという強い意志が働いている。

 ただしこれは拘束力がない提案なので、各国は自国の防疫体制を勘案しつつ、検疫なしの域内の移動(統一されたEU〔欧州連合〕にとっては国内旅行)の再開を各国ごとに判断し、かき入れ時の夏のシーズンまでに旅行再開を何とか間に合わせようとしている。域外諸国からの渡航は感染率が低く欧州の防疫水準レベルと同等の国を対象に順次自由化していく方針だ。

 欧州各国の動向を見てみよう。フランスは6月3日からカフェやレストランとバーの営業を再開した。100km以上の国内旅行を解禁、海岸での日光浴についても許可している。顧客は10人以下、テーブル間隔は1m以上、スタッフはキッチンを含めてマスク着用が義務付けられる。パリなどの感染オレンジエリアではテラスでの営業に限定。国境はEU27カ国と足並みを揃えて、6月15日から封鎖を解除した。

 人々には継続して感染への警戒を要請。7月1日からは域外からの入国制限も段階的に緩和する。留学生らを優先的に入国させるという。5月には9月末までの観光失業者の100%の給与補填補助金支給を含む180億ユーロ(約2.2兆円)の観光産業支援計画を発表。「今年の夏はフランスに旅行する」キャンペーンを開始した。仏国鉄SNCFのプロモーション運賃チケットがホリデーバウチャーを利用すると50%割引で購入できる。

 ドイツは物流などを除く往来を制限してきたトラベルディレクティブを撤廃し、6月15日からいくつかの国を除いてEU域内および英国を含むEU非加盟国との旅行禁止(トラベルバン)を、相手国も入国規制や大規模のロックダウンをしていないことを条件に解除する。旅行警告はガイドラインに変更し、検疫なしの旅行を再開する。14日間の検疫期間を設ける英国への旅行は控えることを勧め、ガイドラインは旅行を奨励するものでなく、旅行者に十分な感染予防対策を求めている。目的地で1週間に10万人あたり50人の新規感染者の発生がある場合は警告を再発動する。

 スペインは当初の7月1日を早め、6月21日に緊急事態宣言を解除して国内移動を自由化させた。22日からは感染状況の等しい国から段階的に入国受け入れを検討している。マヨルカ島では6月15日にドイツからの観光団1000人を試験的に受け入れた。「安全観光回廊(safe tourist corridors)イニシアティブ」と呼ばれるもので、検疫や14日間の隔離は要求されないが、旅行者には健康質問書への記入と到着時の検温が求められる。発熱が見つかった旅行者にはPCR検査が必要になる。旅行者はスマホアプリの追跡システムによって島内移動が監視される。

 マヨルカ島への自国民の国内旅行解禁は1週間後の6月22日に実施された。自国民の国内旅行より外国人受け入れを優先させるとは驚きだ。なお、ポルトガルとの国境は、ポルトガル政府の要請に基づいて7月まで閉鎖が継続される。スペイン政府は観光産業救済支援金として25億ユーロ(約3000億円)を予算配分する。

【続きは週刊トラベルジャーナル20年7月6日号で】

牛場春夫●フォーカスライト日本代表、航空経営研究所副所長。日本航空で主に事業計画、国際旅客マーケティングを担当。05年に退職し現職に就く。海外旅行流通・航空事業の情報収集と研究を行うTD勉強会を組織。