原優二のコロナ奮闘記vol.11 日本が開かなければ海外旅行再開はない

2020.06.02 18:30

 やっと海外への扉が開きそうだ。6月1日、政府が入国制限緩和第1弾として、タイ、ベトナム、オーストラリア、ニュージーランドの4カ国との間で、各国が自国出国前にPCR検査をして陰性証明書を発行、日本入国時に再検査し、陰性なら入国を認めるという仕組みを想定し検討に入った旨、マスコミ各社が報じた。うまくいけば夏から業務渡航の扉が開く。

 しかし現在、日本人が海外へ行けば、どこの国へ行こうが帰国時に14日間の自主隔離を要求される。しかも公共交通機関は使えないし、保健所等による健康確認の対象となる。これでは海外旅行は事実上不可能である。しかも5月25日にはこの水際対策を6月末まで1カ月延長してしまった。なんとももどかしい。

 スペインが7月から、台湾は10月から外国人観光客の受け入れを再開すると表明し、ギリシャ政府は6月15日から「感染収束国」に限定して、外国人観光客の受け入れを再開する。そういわれても、日本がこの水際対策を続ける限り、これらの国に行くことは事実上できない。

 その水際対策の仕組みを以下にまとめてみた。

①法務省
・法務省が入管法に基づき入国拒否対象に111カ国・地域を指定
・査証制限等(査証の効力停止、査証免除措置の停止など)の措置を6月末日まで延長

②厚生労働省
・入国拒否対象111カ国・地域は日本入国に際しPCR検査必須。陽性・陰性共に14日間の自主隔離。保健所等による健康確認の対象
・入国拒否対象111カ国・地域以外はPCR検査不要だが14日間の自主隔離。保健所等による健康確認の対象
・外国との航空旅客便減便等による到着旅客数の抑制要請の6月末日までの延長(検疫を適切に実施する観点から実施。厚労省の要請か不明)

③外務省
 全世界に一律レベル2(不要不急の渡航は止めてください)を発出。従前の危険情報として渡航中止勧告(レベル3)や退避勧告(レベ4)を発出している国・地域もあり

 ちなみに入国拒否対象国・地域には、韓国、シンガポール、タイ、台湾、中国 (香港・マカオ含む)、ベトナム、マレーシア、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、米国(欧州など他は省略)が入っており、少々驚いてしまう。

 もうお分かりと思うが、14日間の自主隔離がなくならない限り、海外旅行は事実上できない。恐らく7月に入れば、111の入国拒否対象国・地域が半分くらいに絞り込まれ、その他は相互協定ができた国・地域から業務渡航を皮切りに、検査を介することで陰性なら14日間隔離なしで入国を許可していく方向に日本政府は動き出すと思う。もちろん、観光目的の海外渡航まで行きつくにはかなり時間がかかる。国・地域によっても濃淡はあるだろう。グアムやハワイあたりから開いていくと勢いがつくのだが。

 こうした状態まで持っていくには、検査キットの開発で20分ほどで検査結果が出るようにすることだ。そうすれば、空港の検疫所での検査も容易になり、航空便減便要請や成田などへの空港限定もなくなる。この検査能力の向上、短時間化こそ、海外旅行再開に決定的に重要だ。6月2日、厚労省は唾液でのPCR検査を認める通達を出した。少しずつだが前進している。

 もう1つ重要なことは経済活動を維持するための検査へ道を開くことである。今回、北九州市で、濃厚接触者は無症状でも全員PCR検査を受けるよう変更された。驚いたことに従来は濃厚接触者でも症状のない人は検査していなかった。なんと今回、北九州で5月23~31日に判明した97人の感染者のうち、過半数の52人はPCR検査時に無症状だった。いかにいままで無症状の感染者を野放しにしてきたかが露呈されたが、この方向転換に拍手を送りたい。やっと日本は、医師が必要と診断しなくても検査を行う方向に転換したのだ。これが韓国のような徹底した検査と隔離につながり、さらには経済活動を維持するための検査へつながる大きな一歩になることを切望する。そうしなければ、居酒屋もレストランも劇場も生きていくことはできない。

 まだまだ、海外旅行再開までの道のりは遠いが、少し視界が開けてきた。とにかく7月が注目である。ここでその先のことが見えてくる。ただし、検査なしで入国できるのは理想だが、それでは第2波が来たらまた国境が閉じてしまう恐れがある。当面はPCR検査で陰性なら入国できる仕組みにすべきだ。そうすれば、第2波が来ても閉じる必要はない。その代わり、大規模な隔離施設の準備が条件になる。言わずもがなだが、医療崩壊を防ぐことは最も重要な課題だ。また、陰性証明書を相手国が求めるなら、日本で海外渡航を目的とした検査が受けられる仕組みを作っていただきたい。

 国民総検査を日々実施することは不可能だし、検査に100%の信頼が保証されない以上、安全・安心を可能な限り担保するためにガイドラインは大切である。しかし、ガイドラインを守るだけでは海外旅行は再開できない。日本が、クラスターが発生しても徹底した検査と隔離で無症状感染者を封じ込め、検査による水際対策を徹底すれば、国際的な信頼を勝ち取ることができる。そうすればインバウンドもアウトバウンドもすべてが見えてくる。オリンピック開催だって可能になる。JATAも関係各所やオリンピック委員会への働きかけを始めたようだ。くどいようだが、徹底した検査と隔離、これが鍵である。

原優二●風の旅行社代表取締役社長。1956年生まれ。東京都職員、アクロス・トラベラーズ・ビューローなどを経て、91年に風の旅行社を設立し現職。2012年からJATA理事、16年から旅行産業経営塾塾長を務める。

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