原優二のコロナ奮闘記vol.20 6月の雇調金終了は死刑宣告に等しい なんとしても1年延長を!

2021.02.05 14:00

 雇用調整助成金は6月30日までしか受けられない。そう記された1月21日の厚生労働省の発表を見て私は目を疑った。特例が延びてほっとしていたのに、これでは肝心の土台が崩壊してしまう。昨年4月に特例が始まった当初は、「通例の対象期間+特例期間」の説明があったのにどこでどう変わってしまったのだろう。

 半信半疑で雇調金のコールセンターに確認したが、昨年6月末までに休業を始めた場合は今年6月30日で対象期間が終了するという。通例、対象期間1年だが、1年を超えて受給できるようにしたと説明がついているから、なんだか朗報に聞こえるが実は全く違う。

 もちろん、特例が延長されたように対象期間が延長される可能性はある。JATA(日本旅行業協会)も当然延長を求めている。リーマンショックの際は今回の特例と違って単価は上がらなかったものの3年300日で連続取得も可能だった。

 もし、延長が受け入れられなければ、当社も含めGoToの恩恵に預かれない海外組(海外旅行を主として事業展開してきた旅行会社やオペレーターなど)にとっては死刑宣告にも等しい。何とかここまで継続してきた会社も、廃業か事務所を縮小し人員整理して休眠、親会社のある会社は旅行事業の廃止・縮小などに追い込まれていく可能性が大である

 感染拡大が止まらす業況が改善しないからここまで特例を延長し続けてきたのに、7月になったら改善するといえるのだろうか。なぜ、終了なのか。政府はこれ以上雇調金を続ければ、雇用の流動化と事業転換を妨げると捉えているようだ。その証左ともいえる新しい補助金が創設される。持続化給付金の後継ともいわれる事業再構築補助金(中小企業対象)である。

 公募が3月から始まるが、その規模はなんと1兆円を超え、1000万円を上限とする従来のものづくり補助金などと違って6000万円まで補助される。さらには事業実施の結果、中小企業の規模を超えるなら1億円まで補助金が増額される「卒業枠」まで用意される。こんな補助金は空前絶後だそうだ。

 調べてみると、支援認定機関と一体となって事業計画を策定しなくてはならないから周到な準備が必要だ。例示された活用イメージには旅行会社のものはないが、宅配事業やオンラインサービス、ECサイト開設など私たちでも可能と思える内容もある。しかし、人件費は補助されず、主たる事業収入が全くない私たちには再構築を図る人件費が出てこないのでかなり難しい。それでも、他に方法がないなら挑戦してみようと私自身は考えている。

 話を戻すが、単純に雇調金の代わりになるとはいえないが、産業雇用安定助成金(仮称)が3月に創設される。出向に出せば出向元も出向先も助成金(助成率最大9/10、上限1万2000円/日)が受けられるようになる。出向は人材流出も覚悟しなくてはならないし、いくら人件費の補助を受けても社会保険料負担が発生する。もちろん、出向を選択しない従業員もいるだろう。しかし経営者としてなんとか雇用責任を果たしたいし、これを利用すれば人材を失わなくて済むかもしれない。

 ただし問題は多々ある。一番の心配は適当な出向先をどうやって見つけるかだ。そのマッチングを産業雇用安定センターが56億円の事務経費を受け受託している。それなりの受け皿はあるようだが、業界内で斡旋センターが作れないものだろうか。なるべく旅行業に近い仕事が望ましい。

 また、助成金そのものの予算が536億円と規模が小さい。申請に応じて予算を増額し打ち切りなどしないという確約がないと出向に踏み出せない。助成される出向期間もまだ決まっていない。少なくとも23年3月までは助成されるようにしていただきたい。そうでないと受け入れ企業もメリットが少なかろう。上限額についても現状の雇調金特例の助成率および限度額1万5000円に揃えるべきだ。

 そうしないと、雇調金の方が条件がいいから当面は出向に踏み切らず休業を選択する企業が出てきてしまう。条件を揃えてスムーズに移行するよう制度設計すべきである。

 2度目の緊急事態宣言も1カ月の延長が決まった。直に影響を受けるのは飲食業やイベント業ばかりではないが、私たち海外組は昨年3月後半から仕事が消滅したままだ。もちろん、Go To予算がさらに1兆円以上積み増され、観光産業に携わるものとして菅首相、政府に感謝しなくてはならない。気持ちが伝わらないだの棒読みだのと批判されるが、そういう表面的な批判は気にせず、実務に長けた首相としてやるべきことを果断にやっていただきたい。

 このような折、私が塾長を務める旅行産業経営塾は今月末からオンライン経営塾を始める。この状況下、この時期だからこそ話せる、話したい、知りたい、考えたいことが山ほどあると思う。是非、ご参加いただきたい。

原優二●風の旅行社代表取締役社長。1956年生まれ。東京都職員、アクロス・トラベラーズ・ビューローなどを経て、91年に風の旅行社を設立し現職。2012年からJATA理事、16年から旅行産業経営塾塾長を務める。

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