フライトシェイム 航空産業に吹く逆風

2020.02.03 00:00

飛ぶのは恥…消費者の意識の変化に航空業界は神経をとがらせる
(C)iStock.com/Professor25

欧州で航空機利用を避ける動きが広がっている。温室効果ガスを大量に排出する航空機利用は恥ずべきふるまいとされ、「フライトシェイム」なる新語まで生まれている。航空会社や航空機メーカーの地球温暖化対策への圧力が急速に強まっている。

 温室効果ガスを大量に排出する航空機利用へのネガティブな評価はいまに始まったことではない。10年代初めには欧州連合(EU)で航空機利用に対する炭素税の導入が議論されるようになった。12年にはEUにおける排出量取引制度(ETS)に航空部門が含まれることとなり、各航空会社はEU域内のフライトを対象に排出量の抑制に取り組まざるを得なくなった。

 しかし航空機による温室効果ガスの排出量は15年時点ですでに6億7000万トン(ICAO〔国際民間航空機関〕調べ)で、当時の世界の総排出量335億トンの2%に相当する規模に達していた。しかも、世界の航空需要は急増が見込まれることから排出量増大への懸念は高まる一方で、IPPC(気候変動に関する政府間パネル)は18年の特別報告書の中で、航空機利用の増大に伴い、航空機からの排出量が50年には総排出量の4%に達する可能性があると指摘した。

 また温室効果ガス排出量を単位当たり(1人を1㎞運ぶ際の排出量)で比較すると鉄道の約10倍という調査結果などが環境研究機関から発表され、航空機はすっかり悪役となってしまった。

 航空産業側も対策には取り組んでおり、16年にはICAOが国際航空運送のためのカーボンオフセットと削減スキーム(CORSIA)を導入し21年から稼働することを決めていた。IATA(国際航空運送協会)も19年の年次総会で、CORSIAの実施を各国政府に求めることで合意し、排出量抑制に積極的な姿勢を示している。

 それでも航空機利用への逆風は止まない。それどころか風圧を増し、環境意識が高い欧州の若者を中心に「Flight Shame(フライトシェイム)=飛ぶのは恥」という言葉が定着しつつある。19年には環境保護に関する大きな発言力を持つスウェーデン人少女グレタ・トゥンベリ氏が、環境関連会議に出席するため、航空機を使わずわざわざヨットで大西洋を横断して話題を集め、英国の人気バンド「コールドプレイ」は航空機移動による環境負荷を理由に、当面はコンサートツアーを行わないことを決めたという。

 人々のマインドも変化しつつある。ブッキング・ドットコムは「17年の旅行業界の8大トレンド」の1つに、移動交通手段に対する旅行者の意識変化を挙げている。具体的には、環境意識の高まりの中で「滞在先での移動手段を選ぶ際に、早さよりも環境負荷の少なさを優先し、その代わりにかかる長い移動時間に車窓からの美しい景色を満喫する」傾向があると指摘。また同社では調査に基づき「世界の79%の回答者は旅行時の移動手段に気を使い、42%ができるだけ徒歩、または自転車で完結したいと答え、18%は飛行機での移動を避けて排出ガス削減に貢献したいと答えた」との報告や、「環境に優しい旅行への減税」への賛成者が41%、「交通機関提供者のカーボンオフセットに関する情報開示の義務付け」への賛成者が26%に達しているなどの調査結果も公表している。

 実際に欧州のメディアでは航空機を利用しない旅行者の存在なども報じられており、たとえばスウェーデンから航空機なら2時間で到着するオーストリアまでの旅行を、鉄道とフェリーを使って30時間かけて行った旅行者のレポートも紹介されている。

 すでに実需への影響も出始めている可能性もある。フライトシェイムの元となったともいわれるフリーグスカム(Flygskam)という新語が生まれたスウェーデンでは、航空機旅行をためらう人が少なくない。フリーグスカムが注目を集めた19年はスウェーデンの航空需要が落ち込んだ。国内主要10空港を運営するSwedeviaは今年1月に、19年の空港での搭乗客数を発表したが、それによると総搭乗客数は18年より4%減少し、国内線搭乗客だけ見れば9%減少している。因果関係は明確ではないが、フリーグスカムが影響した可能性は排除できない。どうやら急速に広がるフライトシェイムの動きに対し、航空業界は後手に回ってしまったようだ。

【続きは週刊トラベルジャーナル20年2月3日号で】

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