廃プラ問題、インバウンド誘致に黄信号

2019.08.19 08:00

日本の観光産業も対応を急がなければ…
(C)iStock.com/TheCrimsonMonkey

地球規模でクローズアップされる廃棄プラスチック問題。観光産業でも欧米企業を中心に対策が始まっている。背景には、対策を怠れば顧客離れを招きかねないという危機意識がある。環境意識の高い富裕層や欧州など成長市場の開拓に力を入れる日本のインバウンドにも影を落としかねない。

 世界的に環境問題への意識は高まる一方だ。なかでも注目を集めているのが廃棄プラスチック。プラスチック製ストロー廃止の動きが象徴的で、大手ファストフード店や有名コーヒーチェーンが続々と廃止方針を打ち出し、身近な問題として感じられるようになってきた。

 6月下旬に大阪で開催されたG20サミットでは主要議題の一つに取り上げられ、各国が「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を共有し、「海洋プラスチックごみによる新たな汚染を50年までにゼロにすること」を目指す方針を示した。議長国の日本は、ビジョンの実現に向けた取り組みとして、途上国の廃棄物管理や海洋ごみ回収の強化などを柱とする支援策を立ち上げ、日本国内での取り組みを強化するだけでなく、廃プラ問題の国際的なリーダー役を務める姿勢も打ち出した。

 廃プラ問題がこれほどクローズアップされるのは、自然環境に遺棄されるプラスチックごみの量がすさまじい勢いで増加し、地球規模の重大な環境問題を引き起こしているからだ。特に深刻なのが海洋プラごみだ。レジ袋に代表されるプラごみのうち、最終的に海洋に流入する量は年間800万トンとされ、クジラやイルカ、ウミガメ、海鳥、魚類などの海洋生物がレジ袋を飲み込んだり、漁網や釣り糸に絡まったりして命を落としているケースが世界各地で多数報告されている。16年の世界経済フォーラムでは、「(重量ベースで)50年には海洋プラごみの総量が海にいる魚の総量を超える」という研究者の試算が紹介され、世界に衝撃を与えた。

 この海洋プラごみの増加に大きく関わっているのが観光産業だ。世界自然保護基金(WWF)が昨年6月に公表した地中海の海洋プラごみに関する調査結果によると、地中海に流入するごみの95%をプラスチックが占める。使い捨てのプラスチック製ストローやマドラー、カトラリー類などが中心だ。夏場は40%も増加する。その増加を引き起こしているのが延べ2億人にも達する観光客で、トルコ、スペイン、イタリア、エジプト、フランスなどの人気観光地から地中海に大量のプラごみが流出しているという。観光客が消費した挙げ句に廃棄物として自然環境中に排出される状況は、世界中の観光地で起きていると考えられている。

 ここまで深刻化している廃プラ問題に対し、環境意識の高い欧米の観光関連企業では具体的な対策を講じる動きが目立っている。航空会社は機内サービスや空港ラウンジでの使い捨てプラスチックの廃止を相次いで打ち出しており、デルタ航空やアメリカン航空、ニュージーランド航空、エールフランス、エミレーツ航空といったフルサービスキャリアだけでなく、ローコストキャリア(LCC)のライアンエアーやチャーター航空会社のハイフライ航空などにもプラスチックフリーの動きが拡大している。また世界最大の旅行企業グループであるTUIは使い捨てプラごみの削減を進めており、さらなる削減へ向けた行動指針も掲げている。

 観光関連企業が廃プラ対策に積極的な姿勢を見せるのは、旅行者が環境問題への対応をサービスや企業を選択する際の評価基準として重視し始めているからだ。将来の主要市場となる年代層や富裕層をはじめとする上顧客ほど、その傾向が強い。

日本人の意識の低さくっきり

 ブッキング・ドットコムが世界18カ国・地域で行ったサステイナブル・トラベル(旅行先の環境やコミュニティーに配慮した旅行)に関する19年版調査によると、旅行者の72%が「次世代のために地球を守るには、人々は今すぐ行動しサステイナブルな選択を行う必要がある」と回答。また回答した割合が最も多かったのは46~55歳(74%)やミレニアル世代(71%)だった。「今後1年間にエコな宿泊施設、またはグリーンな宿泊施設に1回以上滞在する予定」と回答した旅行者は4年連続で増加しており、今回の調査では全体の73%に達した。「宿がエコに配慮していることを知った場合、その宿を予約する可能性は高くなる」との回答も70%を占めた。

【続きは週刊トラベルジャーナル19年8月19・26日号で】

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