『下戸の夜』 同族がうなずく酒場での日常
2019.07.29 18:28

去年の秋にジョージア、今年の春にスペインをひとりで歩いた。両国の共通項は「食べ物がウマいと評判の国」で、実際、なんでも美味だった。
……が、実のところ、やや不完全燃焼でもあった。なぜならば、多くのメニューが多分、ワインと一緒だとより美味しいはずなのに、私は下戸。なんか楽しみ切れてないような……。国内外のワイナリーや酒造の取材も数多くしてきたが、いつも損した気分が残る。
昔と違い「飲めば慣れる」「飲まない奴とは話せない」などと無理やり飲まされることがなくなったのは本当にありがたいけれど、下戸はわりとモヤッとした思いを抱えて生きているのだ。
そんな、下戸族のモヤッと感やその日常を集めたアンソロジーが本書だ。内容は幅広く、下戸の夏目房之介が酒やカラオケとの付き合いを語ったり、大酒飲みの小松政夫が彼が付き人をしていた下戸の植木等を語ったり、パフェ評論家がパフェに酔う話を語りおすすめパフェを紹介したり。あるいは禁酒した人が見つけた新たな夜の楽しみ、下戸の夜の過ごし方、下戸の有名人など、バラエティー豊かというか、けっこうバラバラ。まあ、下戸の話で深く追求することもないので、なんとなく読むにはちょうどいいゆるさ。
その中でも切れ味が鋭いわあ、と思ったのは武田砂鉄氏のエッセイ。「酒でも飲まなきゃ言えない話、なんていいかがたあるけど、じゃあ、言わなきゃいいのに、と思う」というタイトル自体ナイスな酒飲みへのdisだ。また、下戸座談会にも「下戸が居酒屋で飲む新種のドリンクを開発してくれないかな」「ウーロン茶はもっとこだわってほしい」など、下戸なら深くうなずける発言が多数。それにしてもヨーロッパで下戸だと、どんなつらい人生なんだろう。海外の話も知りたくなった。
_R-16.jpg)
山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。
関連キーワード
カテゴリ#BOOKS#新着記事
-
?>
-
『送別の餃子 中国・都市と農村肖像画』 幾多の出会いと別れが織り成す豊かさ
?>
-
『ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔』 その日常から大国の謎を説く
?>
-
『まちをあるく、瀬戸でつながる』 地域に本気で寄り添ってこそ
?>
-
『ルーヴルの猫 (上・下)』 巨大な迷宮めぐる美術書のごとき作品
?>
-
『地球の歩き方ムー 異世界(パラレルワールド)の歩き方』 老舗ガイドブックの健闘に喜々
?>
-
『国境を超えたウクライナ人』 強靭さと国民性まざまざ
?>
-
『冬牧場 カザフ族 遊牧民と旅をして』 厳しくも美しい自然との共生
?>
-
『もてなしだけではもう食えない ホテル経営学の本質と実践』 基本原則を小説仕立てでわかりやすく伝授
アクセスランキング
Ranking
-
旧函館支庁庁舎が食と交流の場に 利活用プロジェクトがスタート
-
観光庁、全国対象の観光需要喚起策スタート GoToは「やらないということではない」
-
進化するペット同伴の旅 運輸大手が環境整備に本腰
-
兵庫県龍野地区、分散型ホテルで地域再生 民間投資呼び込む 改正不特法も活用
-
今夏のクルーズ中止で関係者落胆 再開の壁高く 海事局「めど立たない」
-
コロナ不活化の除菌スプレー、富士フイルム和光純薬が発売
-
『送別の餃子 中国・都市と農村肖像画』 幾多の出会いと別れが織り成す豊かさ
-
4月の百貨店外客売上高47.6%増 客数2割増で3カ月ぶりプラス
-
全長1万㎞のジャパントレイル始動 歩く旅を外客誘致の新たな素材に
-
徳島市、出張前後の旅行を助成 ブリージャーに5000円