マサボ・イザベルが語る「若者アウトバウンド促進の意識」
2019.06.03 08:00
若者の海外旅行離れが指摘されて久しいが、彼らを引き付ける妙案がなかなか見つからないのが現状だ。しかし、イザベル氏の話には、課題解決に向けたいくつかのヒントが散りばめられていた。
先日、「バックパックフェスタ」という大変面白いイベントに行ってきました。若者向けの旅のイベントで、会場には約2400人もの大学生や高校生が集まっていました。ステージにはインフルエンサーたちが順番に登壇し、旅に関するエピソードやアドバイスを紹介したのですが、インフルエンサーの話の内容は全員、ほぼインスタグラムの話ばかり。どこに行けばインスタ映えする写真を撮影できるか。そんな話ばかりで残念な気がしました。
旅に出れば、さまざまな思い出が生まれ、多くの出来事を体験し、美味しい料理を食べ、時にはトラブルにも遭遇します。しかし、そういった話はまるでない。たとえば、南米の話ならマチュピチュ遺跡とウユニ塩湖で撮った写真の話。ここへ行ったらこんな写真が撮れました、以上、です。どうやってそこまで行ったのか、何を体験してきたのか、という話がないのです。これでは海外旅行はまるでインスタグラムのフォロワー数を増やすためのアイテム扱いではありませんか。
せっかく大勢の若者が集まっても、このようなメッセージだけでは海外旅行に行ってもらうことはできないのではと心配になります。インスタグラムの楽しさは否定しませんが、旅の魅力やプラスアルファの魅力を、大人がきちんと植え付けていく必要があると感じました。
兼高かおるさんに憧れて
私は兼高かおるさんに憧れて旅番組のレポーターになり、10年近く世界のあちこちを旅行しました。ノープラン、ノー台本で旅する「ガムシャラ旅行団」という番組のガムシャラレポーター役です。メコン川を3週間かけて下ったり、タクラマカン砂漠を横断したり、チベットからネパールを経てインドまで陸路で旅したこともあります。
旅行経験を重ねるなかで兼高さんが著作「わたくしが旅から学んだこと」の中でもおっしゃっていた、人生の中で役に立つヒントをたくさん得られるということを実感しました。何が起きるかわからない旅で、事態に臨機応変に対応して乗り越えていく力は、どんな分野においてもプロフェッショナルになるために必要な力で、それを旅から教わることができるのです。
後に兼高さんにお会いできた時、「旅に出ると細胞が活性化する」ことも教えられました。さまざまなシチュエーションに遭遇し、そこからいろいろなメッセージをくみ取り、自分の中で咀嚼し、自分の力とすることで細胞が活性化するといいのです。
また、「日本にこんなにたくさんの各国料理のレストランがあるのはなぜか、わかる?」と質問されたこともあります。多くの日本人が世界各地で美味しい料理に出合い、日本の家族や友人たちにも食べさせてあげたいと思うようになった。それが数多くのレストランを日本に生む力になったのだと兼高さんは説明してくださいました。旅の力は本当にいろいろなものを生み出します。そんな旅の力についても若者たちに伝えていきたいと考え、最近は旅行関係のイベントの企画などにも力を入れています。
現在、ANTOR-JAPAN(駐日外国政府観光局協議会)の事務局の仕事を引き受けており、各国政府観光局と一緒に海外旅行促進に取り組んでいますが、ANTORはいま3つの大きな悩みを抱えています。第1に来年日本で東京五輪が開催されることです。開催は7~8月で夏休み時期。重要な海外旅行シーズンと重なり、海外へ出かける人が減ってしまえば、翌年の日本市場向けの予算が削減されかねません。
第2にラグビー・ワールドカップの開催です。大会には多くのサポーターが来日し、自国チームが負ければフーリガンの暴力沙汰が懸念されます。多くのサポーターの来日が予想される国の観光局はフーリガン対策にも気を配らなければなりません。本来は日本市場向けのプロモーションに注力したいのに、リスクマネジメントに力を割かねばならないのが悩みです。
3つ目の悩みが消費税率の引き上げです。増税前に駆け込みで車や住宅を購入する動きがあり、旅行に回るはずの予算が捻出できなくなる。そういう影響が過去の増税時にあったと聞いています。
海外旅行情報が多すぎる
ANTORの忘年会に大学生を招待し、どうして若者は海外旅行に出かけないのかを尋ねたことがあります。参加者自身は海外旅行好きな若者でしたが、やはり周りは海外旅行への関心が薄いのだと言っていました。その理由として考えられるのは、予算がないこと。これはまあそうでしょう。次に休みが取れないこと。特に就職活動などに追われ、日本の大学生はかなり忙しいのだそうです。
そして、次の理由が意外なのですが、海外旅行の情報が多すぎるというのです。インスタグラムをはじめとするSNS上で素人が発信する情報が氾濫しており、どの情報が本物で何を信じていいのかわからず困惑し、どこへ行けばいいのかも判断できなくなるというのです。皆さんも、旅行商品を売るためにインスタグラムで情報を流すという方法は再考してみるべきかもしれません。
そんな若者たちに海外旅行を体験してもらうため、「ハタチの一歩」というプロジェクトがあります。観光庁を中心にJATA(日本旅行業協会)やANTORなども参加する若者のアウトバウンド推進実行会議が主催するものです。今年20歳になる海外旅行未経験者を無料で海外旅行に招待し、スポーツやボランティア体験、現地の若者との交流などを行う面白いプログラムになっています。ところが、期待したほどには応募が集まっていません。
高校生や大学生になってからでは遅いのかもしれません。子供の頃から海外旅行の魅力に目覚めてもらう。外国人や言葉の壁に対する恐怖感を早いうちに取り除く。そういったマインド改革を小中学生、あるいはもっと前から行って意識を変えていく必要性を感じます。
私は機会があると積極的に小中学校の課外授業を行っています。最初は「外国人が道に迷っていたら助けてあげられるか」と尋ねると全員の答えが「ノー」で、理由は「外国人は言葉が通じないから怖い」。しかし、語学は本来、人と触れ合って覚えていくものです。だから最初は話せなくても、日本語でもいいから気持ちを伝えれば大丈夫と伝え、簡単な挨拶だけを教えてゲームをすると、子供たちも変化し、最後には怖さが取り除かれます。そんな風に子供や若者たちを導いていくことが、私たち大人の役割なのだと思います。
Isabelle Massabo●父はイタリア系フランス人、母は石垣島出身。日本とフランスを行き来しながらバイリンガルな環境で育つ。1999年タレント活動開始。2004年旅番組「ガムシャラ旅行団」に出演。08年テレビジオン設立。近年はインバウンド・アウトバウンド関連事業の司会・講演・コンサルタントとして活動中。
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