大阪観光局の塩見魅力創造部長が語る「大阪の災害で見えてきた課題と対策」 

2019.01.01 14:04

地震、台風と立て続けに災害に見舞われた大阪。東京観光財団は19年2月27日にセミナーを開き、大阪観光局で観光案内所やコールセンター事業を統括する塩見正成魅力創造部長が、災害発生時の対応や露呈した課題、体制整備について語った。

 18年は立て続けに災害に襲われた大阪府ですが、初めに発生したのが大阪北部地震でした。6月18日午前7時58分に発生し、大きな揺れの数秒後に緊急地震速報が流れ、速報が間に合わないほどの直下型で震度6弱を記録しました。

 週明けの通勤時間帯で、ほぼすべての電車が途中で停止し、多くの通勤客が車内に取り残されました。私も通勤途上でしたが、地下鉄西梅田駅構内にいたため車内に取り残されず、地上に出て観光局最寄りの心斎橋まで50分歩きました。

 御堂筋を歩いていると、建物から飛び出した外国人が座り込んでいる姿をあちこちで目の当たりにしました。何が起きたのかが分かっていないのだろうな、と思いながら出勤したのを記憶しています。

地震発生時の観光案内所は

 発生時、朝7時から営業開始の大阪観光案内所(JR大阪駅中央改札口前)はオープンしており、難波観光案内所(南海なんば駅1F)は9時営業開始のため、まだ閉まっていました。難波案内所はスタッフ1人がタクシーで出勤しましたが、すでに案内所前に多くの外国人観光客が押し寄せており、1人での対応はパニックを引き起こしかねないと判断し、「2人態勢になるまでオープンするな」と指示を出ました。

 2人が揃い営業を開始しましたが、それでも対応しきれない数の観光客が訪れており、南海電鉄の職員にも協力いただき、状況説明に当たりました。
ここでの主な問い合わせは、何が起こったのか、目的地への交通手段、施設の開館状況などで、アジア圏観光客は行程が過密な場合が多く、慌てているような印象がありましたが、欧米観光客は比較的落ち着いていた様子に見受けられました。

台風知らない旅行者も

 6月28日〜7月8日の西日本豪雨、さらに7月28〜29日に台風12号、極め付きは9月4日昼過ぎから夕方に接近した台風21号でした。最大瞬間風速58.1mは史上最大級で、関西空港が機能不全に陥りました。

 進路を予測してある程度の事前準備ができることもあり、前日にはJRと南海電鉄が計画運休を発表し、近隣商業施設も臨時休業を決めたことから難波案内所は閉所し、大阪案内所は関空行きのリムジンバスや列車の繰り上げ最終便を待ち、正午過ぎに閉所。張り紙対応に切り替えました。大阪案内所への問い合わせ内容として、「台風とは何か」という質問がありました。

 国によっては台風や地震の経験が全くなく、何が起こっているのか理解できず、まさかこれほど深刻になるとは思っていなかった人もいたようです。そのほか、目的地への交通手段、宿泊予約のキャンセル、関空の復旧時期、振替代替空港への行き方、ビザの期限が切れるがどうしたらいいのか、など問い合わせが相次ぎ、想定を超える質問も多く出ました。

見えてきた案内所の課題

 案内所は情報源ではないので、情報を取ってこなければなりませんが、インターネットへのアクセス集中で思い通りに収集できないという課題も浮き彫りになりました。 当日は、英語、中国語、韓国語での施設休館状況、交通機関の状況、主な目的地への行き方について張り紙で掲示しましたが、最も多かったのは交通アクセスを尋ねる人です。

 そこで、次の旅行先と台風進路の位置関係を理解していない旅行者もいることから日本地図を添えました。悩ましかったのは、特にLCC利用の観光客で、運休や遅延、振替の連絡がないがどうすればいいかという問い合わせです。

 関空は大規模な停電に見舞われましたが、停電時にはインターネットが機能せず、想定外のことが起こるのだということも身をもって体験しました。一方、韓国人旅行者からのコールセンター入電数は相対的に少なかったのですが、後で聞くと、総領事館に問い合わせが殺到していたとのことでした。

周遊パスを無料配布

 この台風の数日後に今度は北海道胆振東部地震が発生し、「日本はだめなんじゃないか」というメディア報道もあって、道頓堀は逆に日本人が目立つくらいに外国人観光客が激減しました。一方、「大変な思いをしたけれどやっぱり大阪はよかったね」と思ってもらえるよう、おもてなしの心の対応として、観光局で記者会見を行い、大阪周遊パス2日券(3300円)の無料配布に踏み切りました。

 関空を利用できず大阪に残された外国人が対象でしたが、台湾からの旅行者を中心にSNSで拡散されたことで、難波案内所で3508枚・大阪案内所で1772枚の計5280枚を配布しました。あらためてSNSの力とスピードを痛感させられました。

 また、局内に観光相談本部を設置し、専用ダイヤルで語学が堪能な職員が対応するとともに、「がんばろう!(Go For It!)OSAKA」のロゴマークを制作し、飲食店や土産店、旅行会社などとも協力して、割引コラボレーション企画を展開、需要回復に努めました。

反省生かし体制づくりへ

 局ではこれまでも安全確保マニュアルがありましたが、有効活用できなかったのが正直な感想です。災害当日において、混乱した観光案内所やコールセンターで現場対応しながら、情報収集を行い、それを利用者に伝えるのは大変困難である課題も露呈しました。

 そこで対策本部が情報を収集・集約し、その情報を瞬時に共有・更新することで、案内所は対応に専念するという役割分担を決めました。情報源は航空、鉄道などの交通機関各社や施設、避難所など多岐に渡っているうえ、タイムリーでなければ意味がありません。

 今後の検討課題ですが、そこにアクセスすれば最新情報が一括して入手できるというようなプラットフォームの構築を、大阪府や近畿運輸局などと協議しており、府の新年度施策として予算化されると聞いています。

いかに情報発信をするのか

 停電時の非常電源整備のほか、観光事業者はもちろん、民間が運営する案内所や領事館とも連携を取りながら情報発信することも重要です。そして多言語での交通情報の告知、例えば外国人に銀座線、東西線といってもピンときませんよね。ノンバーバルな説明が有効ですので、地下鉄やJR、私鉄などが共通して表示されるビジュアルで、いかに分かりやすく発信するのか議論しているところです。

 避難所への案内誘導では行政との連携が取れなかった反省があります。特に大阪での宿泊全体の20%ともいわれる民泊利用者ですが、常時管理人がいないケースもあり、宿泊客にどのように情報を流すかも課題の1つとなっています。コールセンターはIP(インターネット)電話を採用しており、無料ですが対外的に番号が分かりにくい課題もありました。

 一方で、災害時は固定電話・携帯電話よりもつながりやすかった利点もあったことから、デメリットを補えるよう、一般ダイヤル番号も周知する方向で議論しています。観光局が災害対策本部を設置するのは今回が初めてだったこともあり、どこまで局が災害対応すべきかなど、行政サイドとの基準や方向性で戸惑った面もあったことから、役割分担を議論しているところです。

部署の役割分担や安保確認

 大阪府が関西広域災害時の外国人観光客対策ガイドラインを策定していますが、例えば、関係機関との協力体制構築を盛り込み、危機管理部門、観光部門、国際部門との連携体制を明記して、避難対応、具体的な情報提供手段などにも言及しています。

 局内でも新たに災害対策の方針を見直し、初期対応を明確化。原則として震度5強以上、巨大台風接近など、局を挙げた防災活動が必要なとき(大津波警報発令等)に災害対策本部を設置し、各役職者、各部がやるべき対応を明確化しました。

 局内の職員安否確認については、これまで不明確な部分もありましたが、各部で職員の状況を集約、それをクラウド上で共有し、総務部が総括して役員に報告する流れを作りました。情報発信面では、局に出動できない事態にも備え、遠隔操作ができるようシステムを改修。災害時に必要な情報を盛り込んだ理事長名のメッセージ案をあらかじめ準備しておき、日時・震度などの情報をアップデートして即座にインターネット・SNSで発信できる体制を構築しました。

  観光局が運営するOsaka Free Wi-Fiは、通常時は登録認証が必要ですが、災害時にはその手順を不要とし、制限時間も1回60分のところ15分に短縮することで、より多くの人が利用できる環境を整備しました。また、観光局ホームページ(OSAKA INFO)の非常時災害ページへの誘導促進を図るため、名刺サイズの広報カードもつくりました。

  Wi-Fi利用法やページにアクセスできるQRコードを記しており、旅行の楽しい気持ちを維持しながら災害も意識してもらう狙いです。

案内所の機能強化へ

 観光案内所のスタッフはおもてなし力に優れ、災害発生時にも臨機応変に対応できる方が多くいらっしゃいます。だからこそ現場を見捨てることが できない、という状況につながりかねません。そこでスタッフの安全確保を大前提に、災害時の開所と閉所の基準を明確にし、どこまでスタッフが対応すべきかの基準も整理しました。

 観光案内所が災害時に機能して役割を果たせるかは、平時から観光事業者といかに連携体制が構築できているかにかかっていると思います。旅行者もリピーターが増え、広域に移動して観光する時代になり、他地域の観光案内所とも有事の際に連携できる関係づくりは必要不可欠です。

 IT時代における観光案内所の役割も高度化しています。例えば、AIと人がやるべき部分の棲み分けや、お客さまとの最前線である生の声をいかに観光施策、危機管理対応に反映させていくか。データマーケティングも災害情報を含め情報をより蓄積していく必要があるでしょう。

 安全・安心をベースとしながら、高度なコンサルティングができるよう
な体制を目指していきたいと考えています。

しおみ・まさなり●1988年日本交通公社(現JTB)入社。西日本交流文化部長、グループ本社観光戦略部長、西日本観光開発統括を経て、18年4月から19年3月まで現職。4月からは同観光局の組織改編に伴い、マーケティング事業部長に就任。姫路ふるさと大使。

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