『哀れなるものたち』 心に刺さる怪作は成長描くロードムービー
2024.03.11 00:00
本誌が発行される3月11日は、アカデミー賞の発表日。本命といわれる『オッペンハイマー』は“原爆の父”を描いた作品で日本での公開が遅れてしまった。同じ作品賞候補でひと足早く話題を集めているのが今回ご紹介する『哀れなるものたち』だ。
物語の幕開けはロンドン。天才外科医により赤子の脳を移植され蘇生した女性ベラは、若い肉体と無垢な心を持つモンスター。自我に目覚めはじめたベラは未知の世界を見たいと遊び人の弁護士に誘われるまま豪華客船で旅立つ。リスボン、アレキサンドリア、そしてパリ。偏見や思い込みとは無縁の彼女の魂は、旅の途上で性愛、自由、貧困といった多様な現実を知り、誰もが予想しなかった方向に成長していく。
いやはや快作というか怪作。おぞましく傍若無人で好奇心いっぱいの美しきベラは人々を魅了してはその心を突き飛ばす。華麗な映像に目を奪われつつ、この話どこに着地するんだ……と途中不安になるほどの自由な展開で、ハートウオーミングでも「涙が止まりません」系の感動作でもないが、心にぐいっと刺さる力強さがある。
今回取り上げた理由は、特殊効果で演出される各地の風景が絶品だから。特にリスボンは夢のような華やかさで、めっちゃ行ってみたくなる。女性が旅しながら成長する、という一種のロードムービーでもある本作は、クセもアクも強いが旅気分にも浸らせてくれる。
ちなみにもっとホンワカ旅に行きたくなる映画を、ということなら最近ではフィンランドのアキ・カウリスマキ監督最新作の『枯れ葉』がおすすめ。若くない孤独な男と女の温かいラブストーリーで、ヘルシンキのパブやカラオケ、カフェや公園がなんとも味があり、北欧ファンには特に強く推したい。
山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。
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