ジョージアと世界観光の日
2024.02.12 00:00
昨年10月にウズベキスタンのサマルカンドで開催された国連世界観光機関(UNWTO)総会で、24年の世界観光の日のテーマが「観光と平和」、開催国がジョージアに決まった。国連はその主旨を、平和と国際理解を促進するツーリズムの役割と、持続可能な観光開発への重要な貢献者としての平和の役割を取り上げる、とした。
世界観光の日とは、1947年に設立された官設観光機関国際同盟(IUOTO)が70年の特別総会で、世界観光機関(WTO)憲章を採択した日(9月27日)にちなんでいる。5年後のWTO設立につながる重要な日は80年以降、世界観光の日とされた。
昨年のテーマは「観光とグリーン投資」。9月27・28日にはサウジアラビアのリヤドで記念イベントが開催され、過去最大規模の120カ国から500人以上の政府や業界関係者が集まった。また2025年の開催国はマレーシアで「観光と持続可能な改革」をテーマとすることが決まっている。それらはサステナビリティーに関連するが、今年はあえてテーマを平和とすることの意義を感じる。
ジョージアは人口約370万人、面積は日本の約5分の1、気候は温暖で日本と同じように四季がある。中世の街並みや黒海ビーチ、温泉などが知られ、ワインや多くの皿がテーブルに並ぶ宴席であるスプラなど日本人にもなじみのある文化も多い。コロナ禍前の19年の国際観光客数は約770万人、86%が欧州の観光客で、東アジアは約7.5万人、うち中国が64%の4.8万人。日本からは約9000人、日本市場での認知度はまだそれほど高くないかもしれない。
ジョージアはロシアとの関わりが深い。ロシア帝国の一部として近代を迎えた後、ロシア革命後に独立宣言するが、その後旧ソ連に加盟。1991年にはソ連崩壊に伴い「独立の回復」を宣言したが、2008年、ロシアの軍事介入で大規模な軍事衝突が発生。現在外務省からロシアとの国境付近に渡航中止勧告(危険度レベル3)が発出される。
しかし最近ロイターは、ジョージアは欧州連合(EU)加盟候補国であるが、EUと緊張関係にある中国やロシアとの関係を組み合わせて深化させようとしていると報道した。今年1月、ジョージア与党党首が中国を訪問し共産党幹部と会談、中国からの投資を受けるなど中国との関係を深めている。またウクライナ侵攻後の対ロシア制裁導入で西側諸国に追随することを拒否、昨年5月にはロシアの航空会社に対し19年に運休したジョージアへの直行便再開を許可し議論を巻き起こした。
ジョージア政府は「観光開発戦略2025」を策定。独自の世界遺産を中心に高級な顧客サービスと伝統的なおもてなしを備え、年間を通して質の高い一流の観光地として世界に知られるというビジョンを掲げ観光に力を入れている。
地政学的に微妙なバランスの上にあるジョージアが世界観光の日の開催国に選ばれることが、平和の実現が持続可能な観光にどう貢献できるかという世界観光の日の趣旨そのものを、皮肉にも際立たせようとしている。
小林裕和●國學院大學観光まちづくり学部教授。JTBで経営企画、訪日旅行専門会社設立、新規事業開発等を担当したほか、香港、オランダで海外勤務。退職後に現職に就く。博士(観光学)。専門は観光イノベーション、観光DX、持続可能性。観光庁委員等を歴任。相模女子大学大学院社会起業研究科特任教授。
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