デジタルノマドの可能性
2023.12.04 00:00

国連世界観光機関(UNWTO)は11月、デジタルノマドに関するレポートを発行、コロナ禍を経てこの数年間で、デジタルノマド向けのビザを発行している国や地域が増加していることを示した。
デジタルノマドとは1997年に初めて文献に登場し、テクノロジーを利用して好きな場所で生活し仕事をする人々と定義されている。米国ではデジタルノマドの数は22年に1700万人と19年比で131%増加したという。
デジタルノマドは旅行とリモートワークによって仕事とレジャーを組み合わせることに興味を持ち、テレワーカー、フリーランサー、場所に依存しない労働者、リモートワーカー、オンライン起業家といったリモートで働く人々のことを称している。その多くは技術やクリエイティブ関連分野で働いているとされ、デジタルノマドビザの発給は観光地に経済的利益をもたらし、イノベーションや起業の促進なども期待される。
レポートによれば23年2月現在、デジタルノマド向けのビザを発行する国・地域は54カ国、ビザプログラムを初めて公式に導入したのは20年8月のエストニアだった。ビザの費用や期間は多様で旅行保険加入を義務付けるところもある。例えばポルトガルでは20年にデジタルノマド村プログラムを開始。コワーキングスペースの無料提供などの取り組みでマデイラ島は一躍有名になった。
UNWTOからレポートが発表されると、そのニュースはX(旧ツイッター)などを通じて世界中に拡散され、関心の高さがうかがえる。
レポートはデジタルノマドビザ導入により、地方やオフシーズンの誘客を促す可能性や、新しいビジネスや投資を促す潜在性から恩恵を受けるかもしれないと結論付けている。ただしデジタルノマドの影響はまだ十分に把握できておらず、信頼できるデータも取得できていないため、ツーリズムの視点からは比較的未開拓な市場で再調査の必要性について指摘している。
さらに総論として、個人にとっての旅行とリモートワークにはデジタルノマドビザはよい選択肢であり、現在、仕事と雇用の流動性が変化するなかで重要なツールの1つとなり、働きながら新しい場所を探索する機会を提供している。ビザ取得費用は国によって異なるが、概して手頃な料金で取得でき、新しい文化やライフスタイルを経験する素晴らしい方法となりえる。適切に準備すれば、デジタルノマドは旅行を最大限に活用し、ノマドとしての自由を楽しむことができると結論付ける。
レポートの調査対象地にはアジアでは台湾やタイ、マレーシアなどが含まれ、残念ながら日本はなかったが、政府はデジタルノマドを呼び込むための制度面の検討を行い今年度中に制度化する動きが始まっている。デジタルノマドは小規模な市場かもしれないが、地域資源を活用したクリエイティブツーリズムの一形態とする見方もある。数だけに頼らず、質的に訪日旅行市場の厚みを増すためにも、デジタルノマドの可能性は決して小さくない。

小林裕和●國學院大學観光まちづくり学部教授。JTBで経営企画、訪日旅行専門会社設立、新規事業開発等を担当したほか、香港、オランダで海外勤務。退職後に現職に就く。博士(観光学)。専門は観光イノベーション、観光DX、持続可能性。観光庁委員等を歴任。相模女子大学大学院社会起業研究科特任教授。
カテゴリ#コラム#新着記事
-
?>
-
EVの評価
?>
-
肩書インフレという時代
?>
-
人生観が変わるサファリ体験
?>
-
地域社会の共感と支持
?>
-
おひとりさま
?>
-
ゲームの中の住人
?>
-
CO2削減とプライベートジェット
?>
-
旅とメディア
アクセスランキング
Ranking
-
ニセコ、訪日客の寄付金で課題解決へ 返礼品に体験型ご当地ギフト
-
訪日客増、石川で顕著も能登復興遠く 観光庁が復興計画を支援 地域の意向反映
-
客室利用率、東阪で明暗 12月速報値 10ポイント以上の開き
-
観光政策と気候行動の統合 バクー宣言が意味するもの
-
地銀2行、静岡・山梨周遊促進で連携 まずフィリピンの富裕層に照準
-
24年の国際旅行者は14億人 コロナ前に回復 フランス1億人超
-
『赤と青のガウン オックスフォード留学記』 プリンセスの体験談がめっぽう面白い
-
国際会議誘致・開催貢献賞に福岡市や岐阜市 JNTOが9件選出
-
東京観光公式サイトでチケット販売 歌舞伎や文化体験など 1週間先の公演も
-
HISと子会社、雇調金64億円返還へ 誤りと虚偽申請で 矢田社長「理解と指導が不足」