『紛争でしたら八田まで』 主人公から創作手法まで斬新

2023.10.09 00:00

田素弘著/講談社刊/759円

 マスター・キートン、ゴルゴ13、ギャラリーフェイク―。国際情勢を背景に主人公が活躍する漫画は勉強にもなるし大好きだ。ただ、どれも主人公は賢く強いおっさんで、女は画面を彩るための存在なのが物足りなかった。

 そんな私の願いを満たす、賢く強い眼鏡美人が世界を駆け回る漫画を今回はご紹介してみたい。

 主人公の八田百合は地政学リスクコンサルタント。地理的条件を下に政治・経済・社会への影響を研究する地政学は、国際情勢分析はもちろん、投資にも役立つと注目度が高まっている。八田の仕事は依頼を受け現地に飛び、リスク分析や解決に当たることだ。

 とにかく現場や登場人物がタイムリー。ミャンマーの山中にある日本の工場でのストライキ、鉱山主の娘でもある妻を拉致されたタンザニアの日本人医師、南アフリカでeスポーツにすべてを賭ける黒人とアフリカーンスの青年たち。最新の13巻では米国の砂漠で開かれるフェス「バーニングマン」に参加し、テック企業の社長にアポを取り、ウクライナ紛争に使える技術協力を取り付ける、という難題に挑んでいる。

 まず現地を知ることがモットーの八田は行く前に言語の習得を欠かさず、現地メシもめっちゃ食べる。地政学のウンチクはもちろん、地元グルメも読みどころ。文武両道な彼女が繰り出す派手なプロレス技もアクションシーンを盛り上げてくれる。

 リスクコンサルティングの専門家が監修を務めているとはいえ、小ネタも満載で現地取材に基づくのかと思いきや、20年のインタビュー記事によれば主な情報源はネットやオンライン英会話の先生だとか。今どきな創作現場から、きな臭さが増す世界の地政がどう読み解かれていくのか今後も楽しみだ。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。

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