これからに期待大の御墳印
2023.09.25 08:00
去年、S県のケアハウスに入居した恩人から、コロナ禍が明けて来訪OKになったと連絡があった。ネットで行き方を調べていたら近くに古墳群があり、「御朱印」ならぬ「御墳印(ごふんいん)」の販売を始めたとの情報が目に入った。車で出かけるので、ついでに御墳印集めもしてみた。
御墳印はすでにいくつかの地域で発行されるが、ツーリズムとしての成熟度はまだ低い。S県は始めたばかりで6市1町が連携した取り組みのため改善の余地が大いにある。日本には約16万基の古墳があるそうでコンビニの約2.5倍。これだけの大資源なのだから、しっかりした観光モデルが出来れば各地の活性化にも貢献できる。これからの成長を期待する意味で実際に巡った体験を基に提言してみたい。
まず、ウェブサイトは来訪者目線で作り変える必要がある。14カ所の古墳の情報が個々に掲載されているが周遊する側には極めて不便で全古墳の一覧はマスト。マップコードもあればカーナビの入力が楽だ。駐車場のない古墳もあり、近隣の駐車場情報も必要。古墳の位置を示したイラスト図はあるが、主要な道路や鉄道との位置関係、車での移動時間、車以外での移動手段などが分かるような地図が欲しい。
複数個所を巡るなら車の利用が必須だが、それができない観光客のために巡回バスや乗り合いタクシーなども整備できれば来訪者数も増える。レンタカー事業者と提携して「御墳印巡りパック」などもできるとよい。主要な古墳に近いJR駅は首都圏からの直通電車が1時間に3本程度あるので、二次交通が整備されれば増客は大いに期待できる。
販売方法にも工夫の余地がある。売店がない古墳の御墳印は観光協会などで販売しているが、実際に古墳に行かなくても買えてしまう。せっかくなら古墳の写真を見せた人などにだけ販売する方が価値が高まる。
複数の自治体が絡んでいるので熱量のバラツキも整えたい。ある小さな古墳の前に大きな町営施設があったが、窓口で「御墳印ください」と申し出たところ、「それってなんですか?」とざわついた。結局そこでは販売しておらず、車で10分ほど離れた駅の観光協会まで戻る必要があった。
古墳マニアや地域を巻き込む仕掛けも検討したい。周遊マップのコンペ、古墳を題材にした写真や俳句などの大会、ボランティアガイド養成など、やれそうなことはたくさんある。古墳近くでのヨガ、太極拳、瞑想教室なども人気が出るかもしれない。古墳検定も創設してはどうか。
御墳印はその古墳の地形が印影となっているが、期間限定の印影などを作ればリピートが期待できる。集めた種類や数ごとに感謝状授与や古墳大使任命などもよいだろう。連絡協議会のような正式な全国組織ができれば認知度を上げやすく、情報も整理される。全国規模での御墳印ラリーなど大掛かりなイベントもできるようになる。
苦労やトラブルはあったが、古墳巡りそのものはとても楽しかった。今後の発展を期待したい。
黒須靖史●ステージアップ代表取締役。中小企業診断士。好奇心旺盛で旅好きな経営コンサルタント。さまざまな業種業態の経営支援に携わり、現場中心のアプローチに定評がある。
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