地球沸騰化時代 真夏の旅にはご用心

2023.09.18 00:00

(C)iStock.com/darksite

地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した--。今年7月が観測史上最も暑い月となる可能性が極めて高いとの発表を受け、国連のアントニオ・グテーレス事務総長が発した警告は衝撃的だ。そして、記録的な酷暑の影響はすでに世界中の旅行者の行動にも変化をもたらしている。

 今年7月、ギリシャの首都アテネの人気観光スポット・アクロポリスでは、夏の酷暑の観光を象徴することが起きた。20日から24日までの間、日中の野外の気温が40度を超える見込みとなったため、通常は朝8時から夜20時までの入場時間を正午から17時30分まで閉館としたのだ。SNSにはアクロポリスの前で朝から入場待ちをする観光客の大行列の光景が投稿された。

 今夏は世界各地で熱波被害や記録的な暑さが確認され、国連のグテーレス事務総長は「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」と警告した。欧州連合(EU)のコペルニクス気候変動サービスは、7月の世界の平均気温が過去最高だった19年7月の16.63度を超えて16.95度となり、1940年以降の観測史上最も高くなったと発表した。7月6日には最高気温17.08度を記録した。

 実際、6~7月は世界各地で異常な暑さだった。例えばイタリアでは連日最高気温が40度を超え、ローマでは7月18日に気温が42.9度まで上昇し、統計開始以来の最高気温となった。イタリア保健省はローマやボローニャなど16都市に警報を発令し、11時から18時まで直射日光を避けるよう呼びかけた。米アリゾナ州フェニックスでは19日間連続で43.3度以上となり、1974年の18日間連続の最長記録を更新した。カナダでは森林火災が頻発し、6月にはその煙の影響で米ニューヨークの空が黄色に染まった。

 酷暑はアジア各地も襲った。中国では7月16日、新疆ウイグル自治区のトルファンで最高気温が52.2度と観測され、中国国内の過去最高気温を更新した。中国では記録的な猛暑が続き、6月には北京で初めて3日連続で最高気温が40度を超えた。タイやベトナム、ミャンマーなどでも今年異例の猛暑が続き、40度を超える日が多かった。タイ北西部のタークではタイ国内観測史上最高の45.4度が観測された。

 日本でも7月の平均気温は統計を開始した1898年以降最高だった1978年を上回る25.96度となり、45年ぶりに記録を更新した。原稿を執筆しているのは8月下旬だが、フランスやスペイン、イタリアなどでは再び熱波が襲い、記録を塗り替える暑さが次々と報道されている。

世界はさらに暑くなる

 こうした現象は昨今では珍しいものではなくなっており、科学者は酷暑が人為的にもたらされたものと断定している。気候変動を研究する国際的な研究グループ「ワールド・ウェザー・アトリビューション」(WWA)は7月に発表したレポートで、欧州や北米、中国でこの数年、熱波の発生頻度が増加しているのは人間の活動による温暖化の結果であり、人為的な気候変動がなければこのような熱現象は極めてまれなものであったと指摘した。そして、世界が化石燃料の燃焼を急速に止めない限り酷暑は通常化し、世界はさらに暑く、長く続く熱波を経験することになるだろうと警告した。

 欧州で初めて熱波が大きな問題として認識されたのは2003年夏。特にフランスでは同年8月初旬に8日連続で40度以上の気温が観測され、約1万5000人が死亡した。その経験から翌年に熱波を事前に予報する熱波警報システムを導入し、高齢者介護施設に集会室や食堂などに少なくとも1カ所はエアコンを設置することを義務付け、国や地方自治体は熱波に対応すべき計画を策定した。

 警報レベルは4段階に設定され、通常の状態であるレベル1のグリーンから、レベル2(イエロー)、レベル3(オレンジ)、そして最大熱波警報のレベル4(レッド)は干ばつや停電、森林火災などをもたらす可能性があり、地方自治体はイベントを中止したり公共施設を閉鎖したりできる。

【続きは週刊トラベルジャーナル23年9月18日号で】

小林裕和●國學院大學観光まちづくり学部教授。JTBで経営企画、訪日旅行専門会社設立、新規事業開発等を担当したほか、香港、オランダで海外勤務。退職後に現職に就く。博士(観光学)。専門は観光イノベーション、観光DX、持続可能性。観光庁委員等を歴任。相模女子大学大学院社会起業研究科特任教授。