『ちいかわ なんか小さくてかわいいやつ』 人気の背景に令和の世相とストーリー

2023.07.10 00:00

ナガノ著/講談社刊/1210円

 ぬいぐるみや文具はもちろんお菓子やアパレルともコラボ中。近頃「ちいかわ」を目にしない日はないのでは。

 ご存じの方も多いと思うが、『ちいかわ』は、ちいさくてかわいい生き物・ちいかわと仲間のハチワレ、ウサギたちの暮らしを描いた漫画で……と書くとほのぼのした感じだし、実際絵柄もほのぼのしているのだが、私含めこの作品が「怖い」という人も多く、むしろそのかわいさに潜むダークな面が人気の後押しをしているといわれる。

 何が怖いかというと、彼らの暮らす世界だ。ちいかわたちは“草むしり”やモンスターの“討伐”で対価を得てつつましく暮らす。チャルメラで大満足だし、ポシェット1つ買うのも大事件。草むしりなどの労働には資格や等級があり、ちいかわは草むしり検定5級に2度落ちた。自然豊かに見える大地には前触れもなくモンスターが現れ、しかも一部は元々彼らと同じ種族だったのでは、という匂わせもされている。

 けなげで泣き虫なちいかわ、仲間思いのハチワレ、勇気あるウサギたちが力を合わせ困難を乗り越え、対価でおやつを買い「ウフフ」と笑い合う姿はかわいいし癒やされもするが、搾取される貧困層という姿に見えなくもないし、理不尽な社会構造にディストピアみも感じてしまい、続きを読むのがやめられない(完全に作者の術中である)。

 芸能界の闇や裏舞台を描いた話題のアニメ『推しの子』もまた、大人に搾取され翻弄されるアイドルや若者の頑張りや苦悩がかわいい絵柄で描かれており、内容は全然違うが私はなんとなく『ちいかわ』を思い出してしまう。

 弱者がど根性でのし上がっていくのが昭和の物語だとすると、令和の弱者は置かれた場所でチャルメラを食べけなげに頑張るのだ。時代ですなあ……。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。

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