『天幕のジャードゥーガル 1~2巻』 モンゴル帝国と少女の戦いに普遍的テーマ
2023.04.24 00:00
おお、こういう切り口があったか。
「このマンガがすごい! 2023」オンナ編1位を獲得した本作を読んでみると、感心したのと同時に、日本でこんなマンガが高い評価を得るとは、と、ちょっとうれしくなった。
こんな切り口、こんなマンガ、というのは、本作の舞台が13世紀のモンゴル帝国で、主人公はモンゴル軍に征服されたイランの奴隷少女、という点。日本人にはなじみが薄い地域と歴史だが、この少女は「魔女」と呼ばれた実在の女性、ファーティマ・ハトゥンがモデルとなっており、彼女がどうやって帝国の宮廷に入り込み、のし上がっていくかが物語の中核となっている。
……というとますますなじみが薄い感じになるが、読むとモンゴルや歴史に関係なく、ファーティマの魅力に引き込まれていく。彼女のなかには大事な人々を奪ったモンゴル帝国への怒りもあるが、その背骨を支えるのは奴隷時代に主人から教えてもらった知識や教養の大切さ。無力な奴隷少女は知略を武器に少しずつ中枢に入り込み、そこで出会ったモンゴル王室の妃たちの思いや願いにある時は共感し、ある時は利用しながら前へ進んでいく。つまりここで描かれているのは知識の大切さ、そして女性たちの戦いや共闘という普遍的なテーマなのだ。
もう1つの魅力は牧歌的な絵柄。シビアな話とほのぼのした絵柄がいい具合にマッチして、織り込まれる当時の風俗とともに楽しく読める。
最強マッチョ軍団のイメージもあるモンゴル帝国だって人口の半分は女性だったはず。女たちがいかにして帝国を支え、あるいは野心や反逆心に燃えて歴史を紡いでいくのか。旅のお供にはもちろん、大河ドラマや女性の生き方などのテーマが好きな方におすすめ。
山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。
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