法制度の構造をまず把握して 三浦雅生弁護士が語る業法・約款の基礎知識と現代的問題

2023.04.17 00:00

三浦雅生弁護士

旅専(旅の専門店連合会)とトラベルジャーナルは3月3日、都内で旅行業界向けセミナーを開催した。コロナ禍から旅行需要が回復するなか、旅行業法や約款のどのような点に注意していくべきか。日々の業務に関わる業法・約款の基礎知識と現代的問題について三浦雅生弁護士が説明した。

 旅行業に関係する法規は旅行業法、旅行業法施行令、施行規則と契約規則があり、そのピラミッド構造を説明します。まず、旅行業法は国会が定めた法律です。日本の一番上にある法令は日本国憲法で、その第22条第1項に「公共の福祉に反しない限り居住、移転および職業選択の自由を有する」とあり、「職業選択の自由」とは起業の自由、すなわち営業の自由も含まれます。国が営業の自由を制約するには国会で定めた法律が必要になります。つまり旅行業法は、観光庁が旅行業者に命令や処分をするための法律といえます。

 旅行業法の下にあるのが政令の旅行業法施行令。政令は内閣の作るルールで国会で作る法律より制定が容易です。その下が各省大臣が定める省令で、旅行業法施行規則(施行規則)に加え、いまは内閣府と国土交通省が共同で作る「旅行業者等が旅行者と締結する契約等に関する規則」(契約規則)があります。これは消費者庁ができて所管官庁との共同管理になったためで、消費者との関係(お客さま)はすべて契約規則に移されました。共に省令ですが、施行規則は国交大臣が定めるため、現場に合わせて改正できるのに対し、契約規則は消費者庁と国交省の協議が必要で少し手間がかかります。

 このほか旅行業法施行要領(通達)は観光庁による旅行業法の解説書で、旅行業約款は旅行契約の契約書です。お客さまのクレームは旅行業法ではなく、旅行業約款をみて誰がどう責任を負うのか詰めていただきたい。お客さまに対する関係は約款、対観光庁は旅行業法という関係になります。

説明義務と契約の成立

 そんな説明を受けていない、というクレームが一番多いですが、旅行業者の説明義務は旅行業法12条の4と5に口頭の説明、旅行取引説明書面の交付、契約書面の交付が定められています。通常は募集パンフレットに掲載される取引説明書面をよく読んでくださいと言ってパンフレット(取引条件説明書面)を交付し、契約書面に契約締結年月日(申込金の領収書)と連絡方法(旅のしおり)を記載して交付すれば、業法はほぼクリアします。説明義務で気をつけるのは2点。目的地の大地震などでお客さまに解除権が生じる事象が発生した場合に解除するかの確認を怠ると、解除権行使の機会を失わしめたとして慰謝料支払い義務が生じたり、手配旅行契約成立前に手配条件の要望を満たす調査を手数料をもらってでもやらないと信義則に基づく調査説明義務違反で損害賠償義務が生じたりします。

 インターネット取引で争点となるのが契約成立の時期で、到達主義が適用されます。メールが消費者の加入しているプロバイダーのサーバーに入った時点で読んでようが読んでいまいが迷惑メールになっていても到達とみなされ契約成立となります。25万円と思って30万円の商品を申し込んだような勘違い(民法上の錯誤)による取り消しも問題になっており、それを封じるために消費者の確認を求める最終確認画面を設定しないと、錯誤による取り消しができてしまいます(電子消費者契約法)。

 業法・約款の現代的問題点の中でも窮屈だと思うのがアウトソーシングの問題です。旅行業法では業務委託を禁じておらず、名板貸しにならない限り、会社OBや旅行業務取扱管理者の他社への業務委託、外務員への委託等も可能で、旅行業者代理業も業務委託になります。JATAのホームエージェント型構想はまさに旅行業者代理業者を活用して高齢者の雇用確保、人材活用を促進したいという提唱です。人脈を持つOBを活用した顧客紹介業務の委託契約も問題なく行えますが、便宜を図って単なる紹介を超えて申込金を預かる等旅行業務を行う場合は旅行業等の登録が必要となる点に注意が必要です。

 一番窮屈なのは共同コールセンターの問題。専門業者が数社から請け負って旅行業務をするには営業所登録が必要なため、観光庁は営業所ごとにパーテーション分けが必要と考えています。すると、コールセンター内で隣の電話が取れないという事態になります。営業所の数に応じて旅行業務取扱管理者を常駐させるのかという議論もあります。旅行業務取扱管理者がいない場所でのテレワーク導入が一部認められていますし、資格者の常駐問題を解決するためにも、テレワークや共同コールセンター導入を提案していくと規制緩和につながると見ています。旅程管理類似業務の24時間サポート業務もアウトソーシングできるよう、適切な案を見いだせればいいと思います。

現状打開への提案を

 標準旅行業約款の争点を挙げると取消料の徴収を90日前に変更するには、標準旅行業約款を変えなければいけません。航空会社が決める航空券運賃ルールに旅行業約款が追い付かず旅行業界が不利な状況にあるのも問題点です。

 コロナ感染を理由とする旅行契約の取り消しで、取消料が不要という主張は約款16条2項3号の解釈の誤りで、コロナであろうがお客さま個人の理由による取り消しには取消料支払いが必要ということで落ち着いています。厚生労働省が不要不急の旅行をやめるように言っているのはお客さまに対してで、旅行会社に催行をやめるよう命令しているのではなく、官公署の命令にも当たりません。また、お客さまが亡くなった場合の取消料についても約款で規定すべきで、相続案件として取消料を請求してもいいと考えます。

 標準旅行業約款の改正が困難な状況のため、現在、JATA(日本旅行業協会)とANTA(全国旅行業協会)では個別認可約款を作っています。作ってほしい約款があればJATAやANTAの事務局に提案してもらいたいと思います。

みうら・まさお●1975年司法試験合格。76年明治大学法学部卒業。83年の標準旅行業約款のJATA原案の作成をはじめ、JATAや国土交通省、観光庁の旅行業法関連の各委員を歴任。総合旅行業務取扱管理者試験や国内旅行業務取扱管理者試験の検査委員なども務める。

旅専会長挨拶

クルーズのゆたか倶楽部
松浦賢太郎代表取締役

 コロナ禍から大きな転換期を迎え、今年は旅行業界復活の年になります。その復活の年に、旅行業法と約款のどのような点に注意し、どんな問題点があるのか。私たちはあらためて理解して、お客さまに対応しなければなりません。そこで業界のいまとこれからを法律の視点で、旅専の顧問弁護士であり、旅行業界の味方でもある三浦弁護士に話していただくことになりました。

協賛企業挨拶/東京海上日動火災保険

大野幸郎営業推進統括審議役

 5類に緩和後、コロナ以外に考えておくべきリスクは多岐にわたります。地球温暖化による自然災害、ウクライナとロシア周辺のテロに加え深刻なのが世界の交流人口が3年止まっていたことで観光事業者の不慣れから起きるリスク。列車やバスの事故も頻発し身の引き締まる思いです。あらためて旅行業法を確認し、問題点を考え、安全な旅行造成と実施をお願いします。

後援/日本アセアンセンター 観光情報サイトで旅のアイデア紹介

 日本アセアンセンターが開設したASEAN10カ国の観光情報をワンストップで閲覧できるウェブサイト「ASEAN Travel(アセアントラベル)」。ASEAN諸国での旅のアイデアを「グルメ」「ショッピング」「体験」など、トピックごとに紹介。新型コロナウイルス感染症の影響に伴う、ASEAN各国の入国規制の概要も案内している。(https://travel.asean.or.jp/)

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