『天路の旅人』 共に歩み続けるかごとく7年越しの完成
2023.02.27 00:00
毎年12月になると旅人かいわいで「今年はアレやるのかな」と話題になるのが、沢木耕太郎氏がDJを務めるクリスマスイブ限定の深夜ラジオ。旅や世界をゆったり語る口調がゲストハウスでベテランの旅人から話を聞いているみたいで、「1年終わるなあ」なんてしみじみするお気に入りの時間だ。
昨年の同番組での話題の中心は、「やっと書けた」本書の件。四苦八苦した挙げ句、「普通に書けばいいんだ」と納得し7年越しに完成させた本書は先日、読売文学賞の紀行賞を受賞した。
「普通に書く」のが難しいのは読めば納得。主人公の西川一三は、第2次大戦末期に密偵として中国奥地に潜入、内蒙古から青海湖を経てラサに至り、敗戦を知った後もラマ僧に扮ふんしたまま、さらにインド、ネパールへと進み、その旅は8年間に及んだ。本書は後に『秘境西域八年の潜行』として出版される3200枚の原稿と、1年に及ぶインタビューを基に描かれている。
蒙古人を自称し、行く先々のラマ教寺院で修行し語学を学び巡礼者として移動。ラクダやヤクを御しつつ、匪賊に怯え、凍傷や体調不良、食料調達にも苦労する。インド以外はほぼ全部徒歩で野宿当然な旅はめっちゃ大変そう。
……なのだが、なんだか面白そうでもある。最初は国益のためにと気張っていたものの、だんだんと未知の世界を見る、識る、人と出会うことに魅了され、アフガニスタン、ビルマへと夢をはせるようになる様は、生粋の旅人そのもの。たぶん沢木氏もそこに共感し、寡黙な西川氏の話をひたすら聞き続け、一緒に旅を続けるように文章をつづり続けたのではないだろうか。
天に続くような路を黙々と歩み続けた希有な男の記録、帰国した後の生きざまも含めて胸を打つものがある。
山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。
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